左:Radineer加藤 右:石見さん
昆虫食とAIの二刀流:学生起業家・石見さんが語るAI時代の生き残り戦略と日本文化への想い
高校中退、バックパッカー、そして起業。
そんな異色のキャリアを持つ合同会社FIXIM代表の石見さんは、現在大学2年生でありながら、昆虫食事業とAI事業というユニークな2つの柱でビジネスを展開しています。
本インタビューでは、石見さんのこれまでの歩みから、AIをフル活用した業務効率化事例、AI時代における「人」の役割、未来への展望に至るまで、多岐にわたるお話を伺いました。
彼の独自の視点から語られる「AI時代の生き残り戦略」と「日本の文化」への深い洞察は、これからの社会を生きる私たちに多くの示唆を与えてくれるでしょう。
異色のキャリアからフィックシム設立へ
加藤:
まず、石見さんご自身のご経歴と、現在大学2年生という中で合同会社フィックシムを立ち上げられた理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?
石見さん:
はい。まず経歴ですが、高校3年生の段階で中退しました。
夢があったからではなく、自律神経が弱く朝起きられない病気が理由です。
その後、フリーターとバックパッカーとして1年半ほどフラフラしていた間にやりたいことが見つかり、2024年3月に合同会社フィックシムを設立しました。
今がちょうど2期目になります。
加藤:
なるほど。起業に至った背景には何か具体的な展望がおありだったのでしょうか?
石見さん:
設立の背景を一言で言うと、「中二病の延長線」だと思っています。
高校を中退し、良い大学に進学しなかったことが「排水の陣」のような形で、起業を決意する後押しになったとは思います。
元々「周りと違うことがかっこいい」という中二病的な思想があったので、その延長線で「会社を作ってみよう」という軽いノリで始めたのがきっかけです。
昆虫食とAIの二刀流事業:その魅力とユニークな結合点
加藤:
「昆虫食とAI」というユニークな文脈で事業を展開されていらっしゃいますが、まず昆虫食に目をつけられた理由をお聞かせいただけますか?
石見さん:
私は食べる・飲む・作るが全て好きで、ある時、東京の馬喰町にあるユニークな昆虫食レストランの存在を知りました。
豊かな日本に住んでいて食べたことのない食材はなかなかないので、純粋な好奇心で食べに行ったんです。
そこで、あるサイドメニューに感銘を受け、その日のうちにオーナーさんにDMを送って事業提携させてもらう形になりました。
加藤:
どのようなメニューだったのですか?
石見さん:
桜の葉を食べる毛虫の糞をお茶に加工したもので、桜餅のような香りとルイボスティーのような香りがするんです。
桜の葉をそのまま煎じると渋くて飲みにくいのですが、毛虫が消化することで渋みだけが取り除かれるんですね。
食材となる生物が食べたものがそのまま味になる体験が非常に興味深く、これは面白いものが提供できると思い、商品化しました。
加藤:
昆虫食へのご興味とAIを結びつけた経緯や、AIをどのように活用されているのかもお伺いしたいです。
石見さん:
これに関しては、事業として完全に何かを掛け合わせてサービスを提供しているわけではありません。
本当に好きなものの点と点が、たまたま線になったような状態です。
AIはAIで、顧問や研修、コンサルティングといった事業を完全に別個で行っており、昆虫食の方はサブ事業、スモールビジネスです。
昆虫食事業では、AIはサービスとしては関わっていませんが、裏方として壁打ちや調べ物などでフル活用しています。
AIを活用して業務効率化するノウハウを昆虫食事業にも活かしている、という状態ですね。
「営業の雑務工数ほぼ0」フィックシムが実践する驚きのAI活用術
加藤:
具体的にAIをどのように活用し、どのような効果を上げていますか?効果的だったユースケースなどがあれば教えてください。
石見さん:
現状、意思決定とクリエイティブな部分、最終確認以外は、ほとんどAIをフル活用しています。
どこで使っているかと言われると難しいですが、大きく改善された部分としては、例えば議事録の作成ですね。
以前は15〜30分かかっていたものが、実際の作業は20秒くらいでできてしまいます。
文字起こしをコピペするだけで議事録とまとめが出てくるので、他社さんでも驚かれます。
加藤:
議事録作成にはどのようなツールを使われているのですか?
石見さん:
Claudeを使っています。
他のLLMと違いHTMLの出力が得意で、簡単なパワポのようなものを作れる特徴があります。
試行錯誤したプロンプトを入れると、スライドで議事録を保存できる仕組みを作りました。
GPTsのように固定で置いておけば、コピペするだけで完成します。
加藤:
それは非常に効率的ですね。
他にAIを活用されている事例はありますか?
石見さん:
営業リストの作成では9割以上の時間を削減できていますね。
調べ物でも大きな効果が出ています。
加藤:
営業リスト作成は弊社でも取り入れたいのですが、どのような方法で作成するのですか?
石見さん:
少し前の事例ですが、今はGenSparkというツールを使えばリストが作れます。
スクレイピングで名前のリストを拾ったりもしますね。
希望にマッチした企業一覧をスプレッドシートに格納し、各セルごとに電話番号や住所、代表名といった必要な情報をどんどん格納していくワークフローを簡単に組めます。
加藤:
ウェブスクレイピング自体もAIツールで完結できるのでしょうか?
石見さん:
ツールではないですが、Google Chromeの拡張機能である「Easy Scraper」を使えば、単純な形式のウェブサイトなら簡単にスクレイピングできます。
難しい場合は、開発者ツールを使ってHTMLをGPTに投げて、スクレイピングするコードを書いてもらうことも可能です。
これは2時間ほどGPTとやり取りすれば誰でもできますよ。
加藤:
石見さんご自身もプログラミング知識がおありなのですか?
石見さん:
全くないです。そこは今も課題ですね。
しかし、それでも自動化を進め、多くの業務を効率化できています。
加藤:
議事録作成や営業リスト作成以外で、お客様に喜ばれている事例はありますか?
石見さん:
議事録と調べ物は特に感動してもらえますが、最近はGenSparkの資料作成も喜ばれます。
知らない方からすると時代の進歩を感じられるようです。
お客様のニーズに合わせて解決するのが私の仕事ですが、事務作業のような共通の大変な仕事を解決できると一番驚かれますね。
営業担当のトークスクリプト作成、民泊経営者のホストと宿泊者のやり取りの自動化といったニーズにも対応しています。
ハルシネーションはAIの「創造性」:スムーズなAI導入のための考え方
加藤:
AI導入にあたり、企業様は「AIが変なことを言わないか」「ハルシネーションが不安だ」といったボトルネックを心配されますが、どのように対処されているのですか?
石見さん:
おっしゃる通り、ハルシネーションが一番のネックになります。
対処法は様々で、例えばミスが許される作業(壁打ちやクリエイティブなど)であれば、多少のミスを許容し、AI内部で何が起こっているかを気にせず進めます。
ミスが許されない業務効率改善の場合は、ワークフローの中に必ず「人の目を通す」プロセスを組み込みます。
改善するワークフローだけを提供するのではなく、既存のワークフローに合わせて「こっからここまでを改善し、全体的に効率を縮めましょう」と提案することが多いですね。
加藤:
「人の目を通す」プロセスとは、具体的にはどのような内容でしょうか?
石見さん:
例えば、履歴書の採点ワークフローを作成した際、AIが履歴書を採点し、優先順位をつけるところまでを担当させました。
最終的な合否判断をAIに任せるとミスが怖いので、最後に人の目を通すことで、制度を担保しつつ人件費を削減する提案をします。
「ここは人間がしましょう」と定めることで、AIがするべき部分も明確になります。
加藤:
最終的な責任は人間が持つということですね。
企業におけるAI導入:組織が受け入れやすい/にくい要因とは?
江藤:
石見さんが企業向けの生成AIによる業務効率化や導入支援をされている中で、一つの業務フローを生成AIに置き換えると、全体工数はどのくらい削減できるのでしょうか。
肌感覚でも構いません。
石見さん:
改善率が高い業務を優先的に選ぶため、全業務の平均ではないですが、課題設計でマンパワーに頼っていた「意思決定」を伴うフローの場合、50〜70%程度は削減が期待できるんじゃないですかね。
どの企業さんでも、そういったワークフローは結構あるはずです。
江藤:
先程、生成AIの業務導入や使用の「慣れ」に関して「ハルシネーションの許容」や「人の目を通すこと」で対処されているとお伺いしました。
AIを受け入れやすい組織と受け入れにくい組織の特徴があればお聞かせください。
石見さん:
導入のしやすさで言うと、情報が「AIフレンドリー」な状態で保存されている会社は、新人育成や情報共有に関してAIを導入しやすいです。
一方で、暗黙知や雰囲気で情報を継承している企業は、それの文字起こしから始まるので導入が難しいでしょう。
大企業に関しては、「人事制度を変えられるかどうか」が非常に大きいと感じています。
DNAの南波さんのような上層部が動いて、組織全体の構成を変えられる体制がないといけません。
Shopifyの社長のメモ書きにもありましたが、経営者と人事が最初にAI導入を希望しないと会社全体は変容しません。
末端の社員からすると、AIを使うことで自分の席がなくなる恐れがあるので、会社にAIを使ってほしくないと思ってしまうのは必然です。
利害関係のバランスを調整してあげることが、大きな会社にAIを浸透させるための一歩目だと考えています。
AI時代を生き抜く「人」の力:人にしかできないことと未来のキャリア形成
加藤:
AI技術は今後も進化し続けると思いますが、AI時代において、人にしかできない仕事や領域はどのようなものだと思われますか?
石見さん:
私が考える「AIが一番発展した未来」でも、人間に残ることはいくつかあります。
まずは「土地の保有」です。これがある限り、物的な世界の競争はなくならないでしょう。
次は意見が分かれる部分ですが、私は「エンターテイメント」やファンは人にしか作れないと思っています。
「この人だから買う」といった営業の仕方も残っていくはずです。
加藤:
仕事、業務以外の側面ではいかがでしょうか?
石見さん:
AI時代だからこそ自分の生き方を考える「哲学」は人間にしかできないと思います。
これはバックパッカー時代に感じたことですが、人間は「自由」にあまり耐性がなく、選択肢が多すぎると困ってしまう。
仕事を全てAIが代替し、働かなくて良い時代が来た時に何がしたいかを考えることは、人間が乗り越えるべき壁になるでしょう。
加藤:
なるほど。
石見さん:
AI発展のレイヤーを一つ下げると、「ゴールの設定」だけは人間にしかできないことだと考えています。
良い政治の答えがないように、「我が国はこういうゴールを目指すんだ」という設計があって初めて道筋ができるように、ゴールの設計は人間にしかできない仕事になると思います。
加藤:
「ゴールの設定」ができるのは、今の労働者層でいうと上流の方々になると思います。
新卒や意思決定権を持たない中堅社員以下の方々は、AI時代をどう生き残り、どのようなスキルを獲得していけば良いのでしょうか?
石見さん:
少し質問から外れるかもしれませんが、そもそもゴールを設計してキャリアを積んでいく必要があるのか、というところから考え直す必要があると思います。
自分の幸せをゴールに置いた時に、キャリアアップがその要件に含まれるのか否かで、すべきことを考えるべきです。
加藤:
やはりキャリアアップが必要だと考える方へ、アドバイスをいただけないでしょうか?
石見さん:
本当に小さなものでもいいので、自分で「価値を生み出す」経験を新卒のうちからしておくべきだと思います。
例えば、得意なAIのジャンルで勉強会を開く、副業を始める、バスケが好きなら友達を集めてバスケをするだけでもいい。
オーナーシップを持って価値を提供することが大切です。
後々AIが出てきた時の「意思決定」という業務に慣れることができます。
やろうと思えば誰だって何かのプロジェクトマネージャーにはなれますし、AIという市場は誰も経験の差がない「焼け野原」な市場です。
新卒や意思決定権がない人は、AIに「フルベット」してみて、そこで経験のある地位の高い社員さんにバリューを発揮していくのが一番無難な生き残り方だと思います。
若者がモチベーションを維持するための哲学
加藤:
若い世代、いわゆるZ世代には「やる気がない」「主体性がない」といった声も聞かれ、AIの浸透でさらに主体性が失われるのではないかという懸念もあります。
石見さんは大学生ながら主体的に行動し、モチベーションを高く維持されていますが、諦めを持ちやすい時代に若者がモチベーションを維持するにはどうすべきだと思いますか?
石見さん:
まず、諦めるなら「主体的に諦める」必要があると思っています。
自動的に意思決定している時、必ず「他責思考」が生まれて不幸を生みやすいからです。
「エリートたちと戦うのを諦めて、少ない賃金で幸せに暮らすんだ」という方向に、自らの意志で進んでいくのも良い生き方だと思います。
加藤:
モチベーションを維持する必要がある場合の対処法はありますか?
石見さん:
私も悩むところではありますが、2つあると思います。
一つは「やりたいこと・やりたくないことをしっかり定義する」こと。
好きなことや嫌いなことを見つける活動を通じて、自分が何をしたいのかを明確にすると、モチベーションアップに効果的です。
もう一つは、「ハッタリでもいいので、ちょっと無理して自分よりレイヤーの高い人と会う」ことです。
人間の主体性は大したことはなく、環境によって思想が変わるので、キャリアアップしたいなら先に周りを変え、それに必死で追いつく方が努力しやすいと思います。
自分の強みを一点突破で生かして高いレイヤーの人と絡むか、「何でもできますよ」と半分嘘みたいなことを言ってアポを取り、その嘘がばれないように必死で勉強して追いつく。
起業当初はよくそうやっていました。
また、モチベーションに頼らない「環境設計(仕組み化)」も大事です。
私は一時期、家のガスを切って近くのジムを契約していました。
そうするとシャワーを浴びるためにジムに行くしかなく、筋トレの頻度も増えますよね。
朝起きられないのを防止するために、枕元に水とカフェイン剤を置き、起きた瞬間に飲んで15分二度寝し、カフェイン剤が効く頃には起きる、といったこともしていました。
これは極端な例ですが、モチベーション維持そのものより、その先にある問題解決に効果的です。
加藤:
そういった環境設計や人の繋がりもAIに代替できない部分ですね。
石見さん:
そうですね。結局、「いいやつ」が生き残ると思います。
以前は性格が悪くても何か価値を提供できれば人付き合いがありましたが、AIに代替されてしまうと本当に「いいやつ」としか付き合わなくなるでしょう。
これからの時代はIQよりもEQ(心の知能指数)が重要になるのではないでしょうか。
最新のChatGPTモデルはIQが上位1%以上と言われていますが、そこで戦っても厳しいです。
加藤:
AI時代に生き残る人の3つの要素を挙げるとしたら何でしょうか?
石見さん:
そうですね。「性格(いいやつであること)」がひとつ。
次に、AIが人間の能率を保管してくれるので、あとは行動した時間で勝負するしかないという意味で、「行動力と体力」。
最後に、自分が安全だと思っていない部分に一歩踏み込む「(コンフォートゾーンを抜ける)勇気」ですね。
社会の動きが加速し、安全地帯が安全でなくなるスピードが速くなる中で生き残るためには、不可欠だと思います。
性格と体力と勇気、この3つを挙げたいですが、付け加えるなら、自分を俯瞰する「メタ認知能力」も必要です。
自分が今コンフォートゾーンにいると認識しなければ、そこから抜け出す判断もできませんから。
「日本の文化を守る」合同会社フィックシムの未来展望
加藤:
石見さんは現在、ほぼお一人でFIXIMを運営されていると伺っています。
AIが能率を担保してくれるとはいえ、大企業に行動量では勝てません。
3年で年商3000万円という目標を達成するロードマップと、その後の事業グロースの展望について教えていただけますか?
石見さん:
行動量で大企業に勝てない以上、とにかく「人を頼る」ことを覚えないといけないと思っています。
最近も営業を周りに頼んでいますが、そろそろ個人事業主目線から経営者目線にシフトしていかなければならない段階です。
正直、AI導入支援事業は業界の単価が高いので、年商3000万円であれば、プレイヤーは私一人でもこのまま頑張るだけでも達成は可能でしょう。
その後の事業グロースに関しては、AI導入支援は「パイの食い合い」であり、OpenAIなどが広げようと思えば広げきれるので、そんなに長く続く業種ではないと思っています。
私は3年以内にキャッシュを作り、それを売却するか回し続けるかは未定ですが、AIの知見と何かを掛け合わせて新しい事業を行いたいと考えています。
加藤:
新しい事業で解決したいものは何でしょうか?
石見さん:
私は日本が好きなので、「日本の文化を守る」ことに寄与したいと思っています。
特に「譲り合いの文化」や「恥の文化」は、搾取する側(テイカー)が一定量上回れば一瞬で破綻する非常に危ういシステムだと考えています。
そこを守るためにどうにか貢献できたら、というのが今のふわっとした展望です。
日本の食文化も好きですが、これは放っておいても生き残ると思うので、譲り合いや恥の文化を守りたいというのが、今私が仮置きしている人生の目標ですね。
加藤:
文化の保全とAIがどのように繋がるのか、楽しみです。
最近の経験、AIに触れたこと、バックパッカーやフリーターとしてフラフラしたこと、この四つが私の幸福論を固めてくれたので、AIもその四分の一に寄与していると思います。
AIを触っていると、「これを使っているうちに働く必要がなくなるな」と感じるので、実は思想の中では繋がっています。
江藤:
最後に、石見さんの組織拡大に関する展望についてお聞かせいただけますか?
石見さん:
会社を作ったのが初めてですし、身内にもノウハウを持つ人はいないため、組織化や企業の成長に関する具体的なことは、今はまだ考えていません。
ただ必要性は感じており、今はAIを使って奇跡的に高いレイヤーの方々と関わることができている「ボーナスタイム」だと捉えています。
そこで学びを得ながら、3年後にキャッシュを作って新しい事業を始める時に、がっつり組織拡大を視野に入れて事業ができたらと思っています。
現在の研修事業は再現性の担保やノウハウの共有がしづらく、属人性が高い領域です。
単価を上げる以外の組織成長が難しいと判断し、この事業での組織拡大は潔く諦めています。
終わりに
AI技術を単なる業務効率化のツールとしてだけでなく、人間社会の根幹をなす文化の保護へと繋げる視点は、合同会社フィックシムの今後の展開に大きな期待を抱かせます。
AIがもたらす急速な変化の中で、人間がいかに適応し、新たな価値を創造していくか。
石見さんの取り組みは、私たちにそのヒントを与え、より豊かな未来を築くための道筋を示してくれることでしょう。