左:加藤、右:悠木さん
昨今「AIによってなくなる職業ランキング」でライターが上位に挙げられ、危機感が叫ばれています。
そんな中、AIを積極的に活用し、自身のライティング業務の効率化だけでなく、「dibreことばLabo」にてその使い方を教える講座まで開催する悠木まことさん。
今回は、フリーランスライターとして活躍中の悠木さんに、AIの活用法だけでなく、AIが世に浸透していく中で、人間ならではの価値をどのように追求しているのか、お話を伺いました。
AI導入への危機感から生まれた活用戦略、SEO記事と取材記事におけるAIの使い分けなど、AI時代に人間ライターが持つべき真の価値について、加藤が深く掘り下げます。
異色のキャリアからフリーランスライターへの道
加藤:
まず悠木さんのこれまでのご経歴をお伺いしたいです。Xでは7回の転職をされているとのことで、興味深いです。これまでと現在の活動について簡単にご教示いただけますか?
悠木さん:
はい、フリーランスライターとして現在まで活動しているのですが、独立したのは2008年です。
それまでは仰っていただいたように七社、転職を繰り返しておりまして…
最初は運送屋さんで、次がドラッグストア、パソコン教室など、本当にいろんなところを経験しました。
ライターをやっておいてなんですが、一切出版とか編集とか、そういった仕事には就いていません。
最後の会社あたりでメルマガのライターやウェブ制作会社でディレクターを経験し、主にサイト内の文章を書くことに抵抗を感じているお客さんを手伝っていました。
独立することになった時、私ができるのは「言葉を使うことだけ」だと気づき、ライターとして活動を始めたというのが主な経緯ですね。
加藤:
ライターになろうとして独立したわけではないのですか?
悠木さん:
立派な目標があったわけではありませんでした。
呼ばれたらどこへでも行き、話を聞いて言語化し、文章にすることを中心に続けています。
紙媒体もウェブ媒体も経験し、現在はインタビュー記事なども手掛けていますが、一番多いのはホームページ制作時の原稿作成です。
デザインだけでは完成しないホームページには様々な文章が必要ですが、会社の方々が自分たちの強みやサービスを言語化するのは難しいことが多いです。
私がインタビューを通して掘り下げ、伝えたい状態の文章に仕上げています。
加藤:
ある種のコピーライティングのような形で、ウェブ制作領域で活躍されてるんですね!
悠木さん:
そうですね。デザインは制作会社さんが担当し、中に入れるテキストは私という形です。
AIを活用し始めたきっかけと業務への影響
加藤:
ウェブ系のホームページの業務の中で、AIを使われるきっかけになった出来事や、初めてAIを活用してみようと思った経緯を教えていただけますか?
悠木さん:
2023年に入った頃からでしょうか、テレビで毎日「ChatGPT」という言葉を聞く時期がありました。
当時、「AIによってなくなる職業ランキング」が流行し、当然ライターもそのリストに入っていたんです。
悠木さん:
「これはまずいぞ」と感じ、見て見ぬふりをしていても仕方がないので、まずはChatGPTがどんなものか触ってみようと思い勉強を始めました。
すると、「なんだ、すごく面白いじゃないか、すごく楽しいな」と感じたんです。
私自身がChatGPTを知りたいと思ったのが、入り口でしたね。
実は2023年の春ごろ、勉強を始めて少ししてから、「ChatGPTで文章を早く書くにはどうしたらいいのか」という初心者向けの使い方を教える講座も始めました。
今は少しお休みしていますが、もう少ししたら再開しようと思っています。
加藤:
ライターという職業がAIに浸食されてしまう危機感もあったものの、実際に触ってみたら、もっと活用してみたいと感じたのですね。
現在はどの程度、ライター業において業務の加速や効率化が進んだのでしょうか?
感覚値で構いませんので、教えていただけますか。
悠木さん:
文字起こしに関しては、「Notta」というツールを使っています。
精度がかなり良くなっているので、文字起こしだけで考えると、1時間の取材に3時間以上かけていたものがゼロになりました。音を聞きながら全部打ち込んで文字に起こしていた時間を考えると、格段に早くなりました。
それ以外のところでも半分とまではいきませんが、やっぱり1/3くらいは短くなったのかな、という感じです。
取材記事の制作におけるAI活用プロセス
加藤:
プロのライターとしてAIを活用するにあたって、
取材準備から取材、文字起こし、構成案作成、記事執筆、公開という一連のプロセス部分も詳しくお伺いできればと思います。
どのようなAIを活用されているのか、具体的に順を追ってご教示いただけますでしょうか?
悠木さん:
準備に関してはあまり使っていないです。
文字起こしをした後、原稿の内容を整理するために一度ChatGPTに流します。
起こした文字を箇条書きにしてもらって、「どういう内容があったか」一度整理しながら、マインドマッピングのような形でまとめます。
話は行ったり来たりするので、同じテーマの話を整理し直し、構成を決めた後は基本的には自分で書いてしまう感じです。
最後に、出来上がった記事の誤字脱字や不自然なところをAIにチェックしてもらい、それを見ながらもう一度手を入れて直す、という感じですね。
加藤:
私のイメージでは、記事執筆段階でAIを活用されている方が多いように感じていました。
悠木さんは、構成案の前段階までAIを使い、記事執筆はご自身で担当されているんですね。ちょっと珍しい
悠木さん:
そうですね。
ChatGPTにしてもらうのは項目出しまでで、それ以降は基本的に私がやっています。
加藤:
実際の記事、本文の執筆にあまりAIの活用をしない理由はあるのでしょうか?
悠木さん:
取材記事に関しては、ChatGPTは少し「頭が良すぎる」んですよ。
ChatGPTなりの文脈の読み方で、いらないことを足してしまって、「その話はしていないね」「それを入れると違う話になっちゃうね」ということを入れてしまう。
最初から自分で書いたものの不自然さを、最後にAIに手伝ってもらった方が、精度の良いものが出来上がるな、というのが私の感覚値です。
取材記事やインタビュー記事ではなく、いわゆるSEO記事であれば、AIに書いてもらってもかなり良いものができると思います。
私もそちらの仕事の場合には、原稿も手伝ってもらいます。
今のところは、ChatGPTに書いてもらう原稿と、自分でやってしまった方が良い原稿がある、という感覚です。
加藤:
SEO記事ならAIでも良いけれども、取材記事となると人間とAIの齟齬が大きいイメージでしょうか?
悠木さん:
AIが文字起こししたものって、やはり完全ではないじゃないですか。
取材した人が読み直せば分かるのですが、文字起こしした文面だと「ここはこう言っていたな」が伝わらなかったり、Bさんが語ったことをAさんが言ったと誤解したりします。
それを全てチェックしていくのはなかなか難しいんです。
例えば、今さっき「私、ちょっと喘息なんで」と会話の本旨に関係ない言葉を挟んだじゃないですか。取材だとこういうことって多いんですよ。
AIはこれを「喘息で苦しみながら原稿を書いた」という大幅に違う内容に仕上げる可能性があって、それがちょっと怖いんですよね。
加藤:
確かに、その強さはわかります。
悠木さん:
私たちは「あ、今喋ろうと思ったら咳が出ちゃったから、ごめんなさいと言ったんだな」とか、会話の前後とか文脈が分かっているので、そこはカットするじゃないですか。
その「必要ないな」という判断が、AIはまだうまくできている気はしないです。
自分でなかなか書けない方はAIにやってもらって、それを見直す方法も良いと思いますが、私は書いてきているので、それだったら自分でやった方が早いな、と。
加藤:
悠木さんのように、インタビュー歴や記事執筆経験のある人だからこそ、AIに任せきれない領域があるのですね。
悠木さん:
そうですね。
この分野に関しては、まだ完全にAIに任せるのは難しいかな、という気はしています。
加藤:
では、もし全くの素人がAIを使って取材記事を書くとしたら、どのような形が最も効率の良いオペレーションになるのでしょうか?
悠木さん:
AIに出してもらった構成案にかなり手を入れて、それを元に原稿を書いてもらう、という形でしょうか。
構成の段階で具体的な指示をできるだけ細かく作った上で、それに合わせて書いてもらうやり方が良いかもしれません。
文字起こしから直接書いてもらうのではなく、自分が記憶しているインタビューの内容と合わせて、この部分はいらない、ここを足して、といった感じで。
加藤:
取材記事の最初の設計図、構成段階でしっかりと手を加えていれば、素人が書くよりは良いものが出来上がる可能性がある、ということですね。
悠木さん:
できるんじゃないかと思います。
SEO記事におけるAI活用の効果と使用ツール
加藤:
SEO記事という文脈でお伺いしたいのですが、AIの導入前後で、クオリティに変化はありましたか?
悠木さん:
私がゼロから書くのとAIで書くのとで、クオリティ面では、良し悪しは多分あまりないと思います。
ただ、スピードがすごい速くなります。もう全然違いますね。
加藤:
SEO記事1本に要する時間の、定量的な変化はありますか?
悠木さん:
⅓~¼くらいになったでしょうか。
SEO記事だとリサーチから入ってくるのですが、リサーチの方もAIにお願いするので。
加藤:確かに。
悠木さん:
いろんな情報を集めてきて、うまく組み合わせたり変えたりする、一番時間のかかるこの作業が格段に早くなります。
出来上がった原稿を最終的に調整するのは手作業ですが、時間は全然違いますね。
加藤:
調査には、どういったAIツールを使われていますか?
悠木さん:
基本的にChatGPTが多いですが、それ以外だと、Perplexityが多いですね。これはかなり強力です。
さらにちゃんと検索したい時は、PerplexityとChatGPTで同じ条件を出して見比べています。
加藤:
内容が被るのではないかと思うんですが、いかがですか?
悠木さん:
もちろん同じものもありますが、ちょっと違うところも出てきます。
それぞれ気になったところを再度確認したり、追加質問をしてもうちょっと調べてもらったりして、その中で良いところを拾っています。
加藤:
私見ですが、Perplexityを使うならそれだけでディープリサーチさせて、そのレポートを鵜呑みにしてしまいがちだと思っていました。
あえて2つ走らせる意図はどういったところにあるのでしょうか?
悠木さん:
AIによって出力の仕方や解釈の仕方に特徴があるので、見比べてうまく使った方がより情報の精度が高くなるというか。
実際に見比べてもらうと、意外と違いが出てくるのがよく分かると思います。
加藤:
そうなんですね!
ちなみに、Perplexityだったらこういう出力をしがちで、ChatGPTのディープリサーチだったらこういう出力をしがち、といったAIの得意不得意のような感覚値はありますか?
悠木さん:
どうでしょうね。
時間がかかるディープリサーチは、最終確認では使いますが、前段階では使わないです。
どうしても必要な情報はきちんと時間をかけて調べますが、通常であれば、いわゆるAIに投げかけてチャットで出してもらうもので十分動けているかなと。
ディープリサーチをしない代わりに2つ3つ合わせてる、という感じもあると思います。
拾ってくるサイトも違っていろんな情報を持ってこれるので。
最近あまり使っていないのですが、GenSparkは意外と良いな、という印象でした。
加藤:
私もGenSparkを使うことが多く、回答の質が人間に寄り添った、人間が理解しやすいものだと感じています。
悠木さんはどういった点を「良い」と感じられているのでしょうか?
悠木さん:
何でしょうね。本当になんとなく見比べた時に「こっちがいいかな」という感じなんです。
両方使っているということは、良かったり悪かったりなんだろうなと思いながら。
使用者との相性や好みもあるのかなと。出したいものに近いものを出してくれるかとか。
業務によって必要な出力ってある程度変わるので、ここで知りたいのは「こっち寄りだな」という部分もあるのかな、という気はします。
人間ならではの価値とAI活用の課題
加藤:
ライティングやコンテンツ制作の文脈で言うと、AIとの親和性が高すぎるがゆえに仕事の幅が狭まったり、仕事がなくなったりするのでは?という話もありました。
逆に、AIに置き換わりづらい「人間ライターならではの価値」はどういったところにあるのでしょうか?
悠木さん:
そこは私も結構考えているところです。
例えば、このインタビューもAIにやらせようと思ったらできるんです。採用領域だとAIがやる一次面接みたいなのもありますし。
AIにインタビューしてもらって、話してもらって、それを原稿にする。できなくはないけれども、今の段階では難しいと思っています。
インタビューで話が飛んだ時、「どこまで戻すか」「主軸とどちらを選択するか」「どう締めるか」といったことを、AIがその場で判断するのは、まだ難しいと思います。
相手が本当に伝えたいことをある程度予測しながらやっていくのは、AIにできない「人の部分」じゃないかな、と思うんですよね。
AIは簡単に褒めてくれるし、すごく褒め上手なんですけど、あと一歩踏み込むのはちょっと難しい部分があるので。
人が関わって人を出していく部分を人間がやった方が、より「人らしさ」が見えてくるのかなと。
AIが作った綺麗なものばかりになってしまうと、「人らしさ」が見えるものにより一層価値が出てくるんじゃないかな、と思っています。
加藤:
いくらでも量産できてしまうからこそ、ある種の人間臭さがコンテンツにないと、ということですね。
悠木さん:
AIできちんと量を出していく部分と人を見せていく泥臭い部分がうまく組み合わさると、ちょっと面白い構成が作れて、サイト全体の価値が上がるんじゃないかな、と思います。
加藤:
機械的に見ても人間的に見ても面白いというか、自然と入ってきやすい文章構成になるんじゃないか、ということですか。
悠木さん:
そうですね。人が入っていた方が、きっとそういうものが出来上がると思います。
加藤:
最近のAIの進化で、すごく人っぽい文章を書けるようになってきた部分もあると感じているのですが、その点に関してはどうでしょうか?
悠木さん:
ライターのお仕事でも、理由は書かれていないのですが、AI禁止のところがあるんですよ。
とあるところで、「AIを使ってもいいけど、ちゃんとしてね」と言われたことがあります。
結局AIで書いた文章だと、例えば同じことを何度も繰り返しちゃったりとか、一文はある程度ちゃんとしているけど、全体を通してみると流れがおかしかったりするんです。
どうしてもスルーしちゃうことがあるんですよね。
加藤:
ありますよね笑
悠木さん:
AIで出したまま納品されたから全然使えない、と言われた方もいらしたんですよね。
だからAI禁止になっちゃうのかなと。
「丸投げできて楽チンだ」と思っていると、ダメなものが量産されちゃうよ、と。
AIを100にせず、AI8割人間2割、AI4割人間6割といった割合を見てうまくやっていくのがいいのかなと思います。
AI活用における最も重要なこと
加藤:
今後のライター活動やコンテンツ制作活動において、業務効率化という部分で、AIは絶対に組み込んだ方が良いものだと思います。
最後に、これからライターを目指す方やコンテンツ制作を行う企業様に向けて、AIのリテラシーを高める上で最初にすべきこと、AI活用での大事な部分を教えていただけますか?
悠木さん:
人間の目を必ず通すことですね。
とある自治体が観光案内の記事をAIに書かせたら、「ありえない存在しない土地だった」という噂がニュースになった話をちらっと聞いたことがあります。
そんなことしちゃったら、企業としての信頼度が落ちてしまいます。
AIは完全に100%正しいことを出すツールではないので、人間が出す指示と人間のチェックが非常に大事です。
「ここまではAIに任せましょう、ここはちゃんと人間の手を加えましょう」という構成をうまく組み合わせることが必要かなと思います。
終わりに
AIがコンテンツをいくらでも生み出せる時代だからこそ、「人の部分」が持つ価値は計り知れないのだと、今回のインタビューで実感しました。
特に印象的だったのは、インタビューにおける人間ならではの洞察力についての話です。
話の真意を読み解き展開を判断する「あと一歩踏み込む」感覚こそが、コンテンツに人間らしさと深みをもたらすのだと悠木さんは語ります。
フリーランスライターとしてAIを活用する悠木さん。noteやXでの発信は有益なものばかり。特にライター業をされている方は悠木さんの情報を追っていくことをおすすめします。
今後お悠木さんの活動に注目です。
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