2023年11月、イーロン・マスクが立ち上げたxAI社から新しい対話型AI「Grok」が発表されました。
GrokはX(旧Twitter)を介してリアルタイム情報にアクセスできたり、ユーモアのある回答が得意だったりと、ChatGPTとは一味違った特徴を持っています。
ここではGrokの特徴や利用方法、ChatGPTとの違い、実際の活用シーンなどを詳しく解説します。
Grokとは?
Grokは、イーロン・マスクのxAI社が開発・公開した対話型AIです。
2023年11月の公開以来、X(旧Twitter)を通じたリアルタイム情報へのアクセスや、人間味あふれるユーモラスな回答が特徴として注目を集めています。
xAI社はGrokの目的を「あらゆる質問に答えること」としており、ChatGPTなどの一般的なAIが回避するような内容の質問にも応じるようです。
2024年3月には新モデル「Grok-1.5」が発表され、「マルチモーダル処理」「長文の理解」「コーディング・数学・推論能力」の大幅な向上がアナウンスされました。
当初、日本からGrokを利用するにはVPNが必要でしたが、2024年5月8日から日本でも正式に利用可能になりました。
xAI社について
xAI社は2023年7月、イーロン・マスクによって設立されたAI企業です。
その目標は「宇宙の理解を目的とした優れたAGI(汎用人工知能)を構築すること」だと、マスク氏は述べています。
AGI(汎用人工知能)とは、人間のようにさまざまなタスクや課題を理解し、対応できる人工知能のことを指します。
Grokの3つの特徴
Grokには大きく分けて次の3つの特徴があります。
- X(旧Twitter)からリアルタイムな情報にアクセスできる
- ユーモアのある自然な対話が得意
- 2つの動作モードを備える
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.X(旧Twitter)からリアルタイム情報にアクセス
GrokはXプラットフォームと連携しているため、X(旧Twitter)からリアルタイムな情報を取得できるのが大きな特徴です。
ChatGPTなどのAIは学習データの更新に時間がかかるため、最新のニュースやトピックへの対応は難しい面があります。
一方GrokはXからリアルタイム情報を得られるため、旬な話題にも素早く反応可能なのです。
2.ユーモアのある自然な対話
Grokは他のAIよりもユーモアを交えた人間味のある対話が得意だといわれています。
xAI社の公式サイトでも、「ときには反抗的な態度をとることもある」とGrokの個性的な一面が紹介されています。
たとえば「xAI社のGrokについて、ユーモアを交えて紹介してください」と質問すると、次のように冗談交じりで返答してくれます。
ChatGPTのような他のAIには見られない、Grokならではの特徴といえるでしょう。
3.2つの動作モード
Grokには「Fun Mode」と「Regular Mode」の2種類の動作モードが用意されています。
Fun Modeでは特にウィットに富んだユーモラスな対話が楽しめ、Grokの個性が強く出る設定になっています。
Regular Modeではやや真面目な対話スタイルとなり、一般的なAIに近い振る舞いをします。
状況に応じてモードを使い分けることで、Grokをより効果的に活用できるでしょう。
Grok-1.5の3つの改善点
2024年3月、xAI社はGrokの新モデル「Grok-1.5」を発表しました。
Grok-1.5では以下の3点が大幅に改善されています。
- コーディングや数学、推論能力
- 長文の理解力
- マルチモーダルな処理能力
順に解説していきます。
1.コーディングや数学、推論能力の向上
xAI社によるテストでは、Grok-1.5は数学やコーディング、推論に関する各種ベンチマークで高いスコアを獲得しています。
引用:xAI
これらの分野におけるGrok-1.5の大幅な性能向上がうかがえます。
2.長文の理解力向上
Grok-1.5は最大128Kトークンという長いコンテキストを処理可能になりました。
Grok-1と比べて最大16倍の記憶容量を備えるようになり、長文の理解と情報活用が可能になっています。
3.マルチモーダル処理の実現
Grok-1.5は、テキストだけでなく画像・図・チャート・スクリーンショット・写真など、さまざまな視覚情報の処理が可能となりました。
これにより、次のような利用シーンが広がります。
- 図を読み取りコードを作成
- イラストを読み取りストーリーを作成
- 表を読み取りCSVに変換
- 画像を読み取りアドバイス
近日中に、Grok-1.5は既存のユーザーに提供開始される見込みです。
Grokの利用方法
GrokはX(旧Twitter)の有料プラン「プレミアム+」の契約で利用可能です。
Xにはこのほかに「ベーシック」「プレミアム」の2つの有料プランがありますが、Grokを使うにはプレミアム+プランへの加入が必須となります。
まずはXのアカウントを開設しましょう。アカウントを持っていない場合は以下の手順で取得できます。
- X公式サイトにアクセス
- 「アカウントを作成」ボタンをクリック
- 案内に従って名前・電話番号・メールアドレスなどの情報を入力
アカウント開設後は、Xのホーム画面左上のアイコンから「プレミアム」を選択し、「プレミアム+」プランに加入します。
Grokは現在英語版のみのため、Xの表示言語を英語に変更すると、以下のようにホ
ーム画面で「Grok」が選択できるようになります。
「Grok」を選ぶとチャット画面が表示されるので、質問を入力して送信するだけです。
これでGrokが利用できるようになります。
Grokの利用料金
GrokはXの有料プラン「プレミアム+」の契約で使えるようになります。
Xの3つの有料プランと料金は以下の通りです。
- ベーシック:368円/月額(3,916円/年額)
- プレミアム:980円/月額(12,800円/年額)
- プレミアム+:1,960円/月額(25,600円/年額)
Grokの利用には、プレミアム+プランへの月額1,960円(または年額20,560円)の支払いが必要となります。
GrokとChatGPTの5つの違い
GrokとChatGPTには、主に以下の5つの違いがあります。
- Grokはリアルタイムな情報にアクセスできる
- Grokはマルチタスクが可能
- GrokはChatGPTが答えられない質問にも答えられる
- Grok-1はGPT-3.5よりベンチマークスコアが高い
- Grokはオープンソース化されている
順番に解説していきましょう。
1.リアルタイム情報へのアクセス
1つ目の違いは、GrokがXプラットフォームを通してリアルタイムな情報を取得できる点です。
GPT-3.5は2021年まで、GPT-4は2023年までの情報しか含んでいません。
2.マルチタスク処理
2つ目の違いは、Grokがマルチタスク処理に対応している点です。
また、GrokはVS Codeやマークダウンエディターと連携しており、開発者やクリエイターの作業効率化に貢献します。
3.制限の少ない質問対応力
3つ目の違いは、GrokがChatGPTでは答えられないような質問にも応じられる点です。
ChatGPTは暴力的・差別的・露骨な性的表現など、一定の基準に反するコンテンツを「許可されていない」として質問を拒否する仕様になっています。
対してGrokは、一般的に不適切とされる内容についても扱えることがxAI社の公式サイトに明記されています。
参考元:Grok AI
加えて、ChatGPTが答えにくい「夢」や「希望」を問う質問にも、Grokはスムーズに回答します。
「あなたの将来の夢は何ですか?」というお題で両者の反応を比べてみましょう。
■ChatGPTの場合
■Grokの場合
Grokの方がより人間的な会話のキャッチボールができているのがわかります。
4.高いベンチマークスコア
4つ目の違いは、Grok-1がGPT-3.5を上回るベンチマークスコアを出している点です。
xAI社のテスト結果によれば、Grok-1は数学・コーディング・言語理解などの各種テストでGPT-3.5より高得点を記録しています。
引用:xAI
2023年5月のハンガリーの大学入試でも、Grok-1はGPT-3.5より高いスコアを獲得しています。
5.ソースコードの公開
5つ目の違いは、Grokがオープンソース化されている点です。
2024年3月、イーロン・マスク氏が「Grokをオープンソース化する」と宣言。
同月中にGrok-1のソースコードが一般公開され、誰でもコードの使用・ダウンロード・改良などが可能になりました。
一方OpenAIは、ChatGPTのソースコードを非公開にしています。
オープンソース化のデメリットとしては、開発の方向性のばらつきや、悪用の懸念などがあります。
しかしメリットとして、AI開発の加速や性能向上の促進が期待されているのです。
Grokの利用例
Grokの代表的な利用例を紹介しましょう。
- 最新情報の収集
- コーディング
- テーマに沿った文章作成
- 翻訳
- アイデア出し
- 言葉の意味を調べる
- 日本語の理解度
それぞれ詳しくみていきます。
1.最新情報の収集
GrokはXから常に新鮮な情報を取り入れられるので、最新ニュースの収集に役立ちます。
Grokの情報収集力を試すため、「今一番ホットなニュースを教えて」と質問してみました。
例えばこのようなプロンプトを入力してみましょう。
プロンプト:AIに関する最新ニュースを教えて。
このように、旬な話題やトレンドをいち早くキャッチするのにGrokは効果的です。
ただし回答によっては実際に調べてみると現実には起きていないニュースだったり過去のニュースだったりと、情報の正確性には疑問が残る結果となりました。
また、「今日の日経平均を教えて」と聞いてみたところ、最新の日経平均株価とその内訳について回答してくれました。
ただしこちらも数字や内容に誤りが見られ、情報の精度はまだ高くないようです。
2.コーディング
Grokを使えば、簡単なコードなら数秒で作成可能です。
試しにこんなお題を出してみました。
プロンプト:電卓機能のコードをPythonで作成してください。
3.テーマに沿った文章作成
Grokは自然な文章作成が得意で、指定のテーマに沿ったコラムや記事の執筆にも活用できます。
例えばこのようなプロンプトを与えてみましょう。
プロンプト:「コーヒー」をテーマとし、200文字程度のコラムを提案してください。
人間味あふれる文章を短時間で大量生成できるのは、Grokの大きな強みの一つです。
4.翻訳
Grokは英日翻訳にも対応しており、言語の壁を越えたコミュニケーションをアシストしてくれます。
Grokの言語能力を確かめるべく、英語を日本語に意訳するよう依頼しました。すると以下のように、言葉のニュアンスをくみ取りつつ、分かりやすい日本語で解説してくれました。
こんな風に指示を出してみました。
プロンプト:次の文章を日本語に直してください。
「Yen weakens to mid-155 level against dollar The Japanese currency continues to weaken against the dollar, reaching the mid-155-yen level. Investors are watching the pair closely as the Bank of Japan begins its two-day policy meeting.」
引用:NHK WORLD-JAPAN
ニュアンスを損なわない自然な日本語訳を瞬時に作り出してくれました。
5.アイデア出し
GrokはWeb上の膨大な情報を活用し、テーマに対する斬新なアイデアや意見の提案にも一役買ってくれます。
例えばこのようなお題を投げかけてみましょう。
プロンプト:母の日にピッタリのプレゼントを提案してください。
企画立案やブレインストーミングなど、創造性が求められるシーンでGrokの発想力を活かせそうです。
6.言葉の意味を調べる
Grokは単語やフレーズの意味をわかりやすく説明するのも得意です。
試しにこんな質問をしてみました。
プロンプト:「仏の顔も三度まで」の意味を教えてください。
言葉の意味を簡潔明瞭に解説してくれるので、国語辞典代わりとしても使えそうですね。
また、日本のことわざ「石橋を叩いて渡る」の意味を尋ねると、由来や英語表現も交えながら詳しく説明してくれました。Grokの翻訳・意訳能力の高さが窺えます。
7.日本語の理解度をチェック
最後に、Grokの日本語理解力を確かめるため、日本語特有の表現をいくつか投げかけてみました。
まずは京都の言葉「ぶぶ漬けはいかが?」を聞いてみましたが、残念ながらその裏の意味である「早く帰ってください」というニュアンスは読み取れず、ぶぶ漬けそのものについて解説する回答が返ってきました。
また、「月が綺麗ですね」が「I love you」の意訳だと言われていることを伝えても、言葉通り月の美しさについて語るのみでした。
これらの結果から、Grokはまだ日本語の含みやニュアンスを読み取るまでには至っていないことが分かります。日本語の精度向上は今後の課題と言えるでしょう。
まとめ|今後に期待が高まるGrok
今回は、2023年11月にイーロン・マスク率いるxAI社が発表した対話型AI「Grok」について、その特徴や使い方、ChatGPTとの違い、実際の活用例などを詳しく解説しました。
Grokはリアルタイム情報へのアクセスや、ユーモアあふれる自然な会話が魅力の新世代AIです。
新モデル「Grok-1.5」の登場も間近とのことで、今後の進化から目が離せません。