生成AI利用実態の社内アンケート設計2026|「使っていますか」では実態が出ない5つの設問設計
生成AIの社内利用実態を正しく把握するアンケートの作り方を解説します。作業ベースの設問、ツール名の聞き方、情報種別の具体化、匿名性の担保、自由記述の5点と、実施前に決める3項目を整理します。
生成AIの社内ルールを整えたあと、多くの会社が同じ壁に当たります。「ルールは配ったが、実際に誰がどれくらい使っているのか分からない」という状態です。管理ツールのログだけでは、個人アカウントでの利用や、スマートフォンからの利用は見えません。そこで実施されるのが社内アンケートですが、設問の作り方を誤ると、実態とかけ離れた集計結果が出ます。この記事では、回答から本当の利用実態を引き出すための5つの設問設計を整理します。
「生成AIを使っていますか」では実態が出ない理由
最も多い失敗は、最初の設問を「業務で生成AIを使っていますか」にすることです。この聞き方には二つの問題があります。
一つ目は、回答者が「使っている」と答えることをためらう点です。社内ルールが配られた直後であれば、なおさらです。自分の使い方がルールに沿っているか自信がない人は、安全側に倒して「使っていない」を選びます。結果として利用率は実態より低く出ます。
二つ目は、何を生成AIと呼ぶかが人によって違う点です。チャット形式のツールだけを思い浮かべる人もいれば、文書作成ソフトに組み込まれた要約機能や、翻訳サービスの新機能を生成AIと認識していない人もいます。同じ行動をしていても、回答が分かれます。
無許可利用の可視化そのものについてはシャドーAI対策ガイドで扱っています。アンケートは、そこで見えない領域を人に直接聞いて補う手段だと位置づけると設計しやすくなります。
実態を引き出す5つの設問設計
1. 可否ではなく「直近1週間にやった作業」を聞く
「使っていますか」ではなく「直近1週間で、次のような作業をしましたか」と聞きます。選択肢には「メールや文書の下書きを作らせた」「長い資料を要約させた」「翻訳させた」「表やデータの整理を頼んだ」「調べものの相談をした」といった具体的な作業を並べます。
作業として聞くと、回答者はルール違反かどうかを判定せずに事実を思い出せます。期間を1週間に区切るのも重要です。「ふだん」と聞くと印象で答えることになり、たまに使う人が「使っている」に含まれてしまいます。
2. ツール名は選択肢で示し、自由記述も併設する
ツール名を自由記述だけにすると、名称のゆれや記入漏れが起きます。社内で正式に契約しているツールを選択肢として先に並べ、末尾に「その他(名称を記入)」を置きます。
ここで得られる「その他」の回答が、最も価値のあるデータです。会社が把握していないツールの名前が、そこに現れます。集計後はアカウント・ライセンス棚卸しの台帳と突き合わせ、差分を確認します。
3. 入力した情報の種類を、具体例で聞く
「機密情報を入力しましたか」と聞いても、意味のある回答は集まりません。何が機密かの判断が人によって違うためです。代わりに、情報の種類を具体的に並べて選ばせます。
たとえば「社内の会議メモ」「顧客名や連絡先が含まれる文章」「取引先から受け取った資料」「未公開の売上や計画の数字」「公開済みの自社サイトの文章」といった粒度です。判断を求めず、事実だけを選んでもらう形にします。この結果は、ルールのどの条項が理解されていないかを示す材料になります。
4. 回答者が特定されない設計を、先に宣言する
実態調査で最も精度を左右するのが匿名性です。氏名を任意欄にしても、部署名と職位を同時に聞けば、少人数の部署では個人が特定できてしまいます。
部署は本部単位など粗い区分にとどめ、職位は「管理職かどうか」程度に絞ります。そのうえで、依頼文に「回答は集計のみに使い、個人を特定して指導や処分に用いない」と明記します。この一文があるかどうかで、正直に答えられる設問の割合が変わります。
5. 「困っていること」を必ず1問入れる
選択式の設問だけでは、次に何をすべきかが見えません。「生成AIを使うときに困っていること、迷うことがあれば書いてください」という自由記述を1問置きます。
ここには、ルールの分かりにくさ、申請手続きの面倒さ、そもそも何に使えるか分からないという声が集まります。運用改善の優先順位は、この欄から決めるのが現実的です。定着そのものに課題がある場合は生成AIが社内で使われないときの定着ガイドも合わせて確認してください。
実施前に決めておく3つのこと
設問が固まっても、運用の枠組みを決めずに配ると一度きりの調査で終わります。
まず頻度です。変化を見るには、同じ設問で繰り返す必要があります。半年に1回など、比較できる間隔を先に決めます。設問を毎回変えると前回との比較ができなくなるため、追加はしても既存設問の文言は極力そのままにします。
次に対象範囲です。正社員だけにするか、業務委託や派遣スタッフを含めるかで結果は変わります。外部スタッフの利用実態は見落とされやすい領域です。
最後に公表範囲です。集計結果を全社に返すのか、経営層への報告にとどめるのかを事前に決めます。回答者に結果が返らない調査は、次回の回答率が落ちます。
集計後にやること
アンケートは集めて終わりではありません。集計結果は三つの用途に使います。
一つ目は、ルールの改定です。多くの人が同じ箇所で迷っているなら、その条項の書き方に問題があります。二つ目は、研修内容の調整です。理解されていない情報分類が分かれば、そこを重点的に説明します。三つ目は、契約の見直しです。ほとんど使われていないツールと、申請なしで使われているツールが同時に見つかることがあります。
ルール側の運用については生成AI利用ルールの見直しガイドで扱っている年次点検の材料としても使えます。
よくある質問
回答率が低いときはどうすればよいですか
設問数と匿名性の二つを疑います。設問が15問を超えると途中離脱が増えます。また、匿名性の説明が不十分だと、回答自体を避けられます。所要時間を明記し、5分以内で終わる分量に絞るのが現実的です。
ログが取れているなら、アンケートは不要ではないですか
ログで分かるのは、会社が契約したツールへの社内端末からのアクセスです。個人アカウントでの利用、私物端末からの利用、そして「なぜそう使ったのか」という理由は、ログには残りません。両方を突き合わせて初めて実態に近づきます。
正直に答えると不利になると思われないか心配です
調査の直前や直後に、違反者への指導を行わないことが前提になります。調査と処分を時期的に分けることと、依頼文で用途を限定することの両方が必要です。片方だけでは信頼されません。
各ツールの料金やデータの取り扱いは変更されるため、導入前に提供元の公式情報でご確認ください。また本記事は一般的な運用の整理であり、個別の法的助言ではありません。個人情報を含む調査の設計や労務上の取り扱いは、専門家にご相談ください。
AI Scout編集部
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