AIが退職金の税金を給与と同じ計算で答えてしまう2026|勤続20年・1,500万円の所得税341万4,000円が実は27万2,500円になるのを防ぐ5つの手順
AIに退職金の税金を聞くと給与と同じ累進計算で答えがちです。退職所得控除800万円と2分の1課税を落とすと、勤続20年・1,500万円の所得税が341万4,000円と27万2,500円に分かれます。防ぐ5つの手順を解説します。
「勤続20年で退職金1,500万円を受け取ります。所得税はいくらですか」とAIに聞くと、「1,500万円は33%の区分なので、341万4,000円です」と返ってくることがあります。速算表の使い方は合っています。しかし、退職金は給与と同じ計算をしません。退職所得控除800万円を引き、残りを2分の1にした350万円に税率をかけるのが正しい手順です。所得税は27万2,500円になります。
差は314万1,500円、税額でいえば12.5倍のズレです。この記事では、AIが退職金の税金を「給与と同じ累進計算」で答えてしまう仕組みと、取り違えを防ぐ5つの手順を説明します。
同じ退職金1,500万円の所得税が341万4,000円と27万2,500円に分かれる
退職金は税法上「退職所得」という独立した区分に入ります。給与や事業の所得と合算せず、単独で税額を出す分離課税です。しかも、長年の勤務に対するまとめ払いという性格から、税負担を軽くする2つの仕組みが用意されています。1つ目が退職所得控除、2つ目が2分の1課税です。
AIはこの2つを落としがちです。「所得税は速算表で計算する」という知識は正しく持っているので、退職金の額をそのまま速算表に当てはめてしまいます。結果として、勤続20年・1,500万円の例では次のように分かれます。
| 計算項目 | AIの答え(給与と同じ計算) | 正しい計算(退職所得) |
|---|---|---|
| 退職所得控除 | なし | 40万円×20年=800万円 |
| 2分の1課税 | なし | (1,500万円−800万円)×1/2=350万円 |
| 適用税率と控除額 | 33%、153万6,000円 | 20%、42万7,500円 |
| 所得税額(基準所得税額) | 341万4,000円 | 27万2,500円 |
| 復興特別所得税を含む所得税 | 348万5,694円 | 27万8,222円 |
| 住民税(10%) | 150万円 | 35万円 |
| 税額合計 | 498万5,694円 | 62万8,222円 |
| 手取り額 | 1,001万4,306円 | 1,437万1,778円 |
手取りの差は435万7,472円です。退職後の生活設計や、役員退職金の支給額を決める株主総会の議案、会社側の源泉徴収額の計算で、この差はそのまま判断の誤りにつながります。
退職所得の税額を決める3つの段階
退職所得の税額は、3つの段階を順に踏んで出します。どの段階を飛ばしても答えが変わるため、AIの答えを見るときはこの順序で確かめます。
段階1:退職所得控除を勤続年数から出す
退職所得控除は、勤続年数に応じて次の式で決まります。勤続年数に1年未満の端数があれば、1年に切り上げます。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数−20年) |
勤続20年ちょうどなら800万円です。勤続20年3か月なら21年に切り上げて870万円になります。この3か月の差で控除が70万円変わり、所得税は27万2,500円から21万7,500円に下がります。AIに勤続年数を渡すときは、入社日と退職日をそのまま渡し、切り上げの計算まで出させると確実です。
段階2:控除後の金額を2分の1にする
退職金から退職所得控除を引いた残りに2分の1をかけたものが、課税退職所得金額です。1,000円未満は切り捨てます。1,500万円の例では、(1,500万円−800万円)×1/2=350万円です。
2分の1を忘れると、700万円に対して23%の区分が適用され、所得税は97万4,000円になります。逆に、2分の1はしても控除を忘れると、750万円に対して108万9,000円です。どちらも正しい27万2,500円の3.6倍から4倍のズレになります。
段階3:課税退職所得金額に速算表を当てる
350万円は「330万円超695万円以下」の区分なので、税率20%、控除額42万7,500円です。350万円×20%−42万7,500円=27万2,500円が所得税、これに2.1%の復興特別所得税を上乗せして27万8,222円が源泉徴収される金額です。住民税は課税退職所得金額の10%で35万円、こちらも退職金の支払い時に特別徴収されます。
2分の1が使えない2つのケース
ここまでの計算は「一般退職手当等」の場合です。勤続年数が5年以下のときは、2分の1課税が制限される2つのルールがあり、AIはこれも落としがちです。
役員で勤続5年以下:2分の1が一切使えない
法人の役員として勤続5年以下の退職金は「特定役員退職手当等」となり、控除後の金額に2分の1をかけません。たとえば役員在任4年で退職金1,000万円なら、退職所得控除は160万円、課税退職所得金額は840万円です。所得税は840万円×23%−63万6,000円=129万6,000円になります。
これを一般退職手当等として計算すると、420万円に対して41万2,500円です。差は88万3,500円で、正しい税額の3分の1以下に見えてしまいます。役員退職金の支給額を決めるときに手取り基準で考えていると、この差がそのまま資金計画の穴になります。
従業員で勤続5年以下:300万円を超える部分は2分の1が使えない
役員でない従業員でも、勤続5年以下の退職金は「短期退職手当等」となります。2022年分以降、退職所得控除を引いた残りのうち300万円を超える部分には2分の1をかけません。
勤続4年で退職金600万円の例では、控除160万円を引いた残りは440万円です。300万円の部分は2分の1で150万円、300万円を超える140万円はそのまま加算し、課税退職所得金額は290万円です。所得税は290万円×10%−9万7,500円=19万2,500円になります。全額に2分の1をかけると220万円で12万2,500円となり、7万円の差が出ます。
申告書を出さないと20.42%が源泉される
もう1つ、AIが説明を飛ばしやすいのが「退職所得の受給に関する申告書」です。退職金を受け取る人がこの申告書を会社に提出していれば、会社は上記の計算で源泉徴収し、原則として確定申告は不要です。
提出がない場合、会社は退職金の額面に20.42%をかけた金額を源泉徴収します。1,500万円なら306万3,000円です。正しい税額27万8,222円との差278万4,778円は確定申告をすれば還付されますが、申告するまでの数か月間は手元に戻りません。AIに「退職金の源泉徴収額」を聞くときは、申告書の提出有無を条件として伝えないと、どちらの数字が返ってくるか分かりません。
取り違えを防ぐ5つの手順
AIに退職金の税額を聞くときは、次の5つの手順で条件を渡し、答えを確かめます。
手順1:「退職所得として分離課税で」と明示する
プロンプトの冒頭に「退職所得として、退職所得控除と2分の1課税を適用したうえで、他の所得と分離して計算してください」と書きます。「税金を計算して」だけでは、AIは給与所得の計算を流用します。前提を先に固定すると、段階1から段階3の順で答えが返りやすくなります。
手順2:入社日・退職日・役員か否かを渡す
勤続年数は「20年」と丸めずに、入社日と退職日を渡します。端数の切り上げをAIに計算させ、控除額の根拠を出させるためです。あわせて「役員としての在任期間は何年か」も渡します。役員在任5年以下なら特定役員退職手当等、従業員で勤続5年以下なら短期退職手当等になり、2分の1の扱いが変わります。
手順3:控除・2分の1・速算表の3段階を別行で出させる
「退職所得控除額、課税退職所得金額、所得税額の3つを別々の行で示してください」と指示します。最終的な税額だけを見ると、どの段階が抜けたか分かりません。3段階に分けると、控除が引かれているか、2分の1がかかっているか、速算表の区分と控除額が合っているかを1行ずつ確かめられます。
手順4:所得税・復興特別所得税・住民税を分けて出させる
源泉徴収される金額は、所得税に2.1%の復興特別所得税を上乗せしたものと、住民税10%の2本立てです。「所得税27万2,500円」だけを見て手取りを出すと、復興特別所得税5,722円と住民税35万円を落とします。3つを分けて出させ、合計と手取り額まで表にさせると、見落としが減ります。
手順5:申告書の提出有無と過去の退職金の受け取りを確認する
「退職所得の受給に関する申告書」の提出を前提にしているか、AIに明示させます。提出なしなら20.42%の一律源泉になります。また、同じ年や近い年に他の会社から退職金を受け取っていたり、iDeCoや企業型DCの老齢一時金を先に受け取っていたりすると、勤続年数の重複部分を控除の計算から除く調整が入ります。この重複期間の見直しは税制改正で扱いが変わっており、2026年以降に受け取る退職金では除外期間が延びています。該当する可能性があるときは、AIの答えをそのまま使わず、税理士や年金の運営管理機関に確認してから支給額を確定させるのが安全です。
AIツールを使うときの実務上の注意
ChatGPTやClaude、Geminiなどの汎用AIは、退職所得控除の存在自体は知っています。「退職金の税金の仕組みを教えて」と聞けば、控除と2分の1課税の説明が返ってきます。問題は、具体的な金額を渡して「いくらか」と聞いたときに、その知識を計算に反映しないまま速算表だけを使うことがある点です。仕組みの説明と計算が別々に動いてしまうのが、この取り違えの正体です。
freeeやマネーフォワードなどの給与計算ソフトは、退職金の計算機能で勤続年数と役員区分を入力すれば、控除と2分の1を自動で反映します。AIに聞いた数字は、こうしたソフトや国税庁の「退職金と税」のページにある計算例と突き合わせてから使うようにします。特に役員退職金は、支給額そのものが税務上の妥当性を問われるため、税額の計算とあわせて税理士の確認を通すのが基本です。
まとめ
AIに退職金の税額を聞くと、給与と同じ累進計算で答えることがあります。勤続20年・1,500万円の例では、所得税が341万4,000円と27万2,500円に分かれ、手取りで435万7,472円の差が出ます。原因は、退職所得控除800万円と2分の1課税を計算に反映していないことです。
防ぐ手順は5つです。退職所得として分離課税で計算すると明示する、入社日・退職日・役員か否かを渡す、控除・2分の1・速算表の3段階を別行で出させる、所得税・復興特別所得税・住民税を分けて出させる、申告書の提出有無と過去の退職金を確認する、の5つです。「税率33%」と出てきたら、それが退職金の額面にかかっているのか、控除後に2分の1をした金額にかかっているのかを、先に確かめるようにしましょう。
AI Scout編集部
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