AIが「賃金台帳の保存は入社から3年」と答える2026|労基法109条は本則5年・143条で当分の間3年・起算日は退職日や最後の記入日など書類ごと
AIに賃金台帳や労働者名簿の保存期間を聞くと「入社から3年」と答えることがあります。労基法109条は5年、143条で当分の間3年、起算日は書類ごとです。5つの誤答と確認手順を解説します。
「賃金台帳は何年保存すればよいか」とAIに聞くと、「3年です」とだけ答えることがあります。「5年です」と答える例もあります。「入社日から数えて3年たてば捨ててよい」と答える例もあります。
どの答えも、条文の一部しか見ていません。労働基準法第109条は、労働者名簿・賃金台帳などを5年間保存しなければならないと定めています。一方で第143条第1項は、当分の間、この「5年間」を「3年間」と読み替えると定めています。さらに、いつから数えるか(起算日)は、施行規則第56条が書類ごとに決めています。
この記事では、e-Gov法令検索で取得した労働基準法第107条〜第109条・第120条・第143条と、労働基準法施行規則第53条〜第56条の条文をもとに、AIが取り違えやすい点と、AIに正しく答えさせる手順をまとめます。
労働者名簿・賃金台帳・記録保存の基本ルール
| 項目 | 条文の内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 労働者名簿 | 事業場ごとに作り、変更があれば遅滞なく訂正する(日雇いの人は除く) | 第107条 |
| 賃金台帳 | 事業場ごとに作り、賃金を支払うたびに遅滞なく記入する | 第108条 |
| 保存期間(本則) | 5年間 | 第109条 |
| 保存期間(経過措置) | 当分の間、3年間と読み替える | 第143条第1項 |
| 保存期間の起算日 | 書類ごとに異なる | 施行規則第56条 |
| 違反した場合の罰則 | 30万円以下の罰金 | 第120条第1号 |
保存の対象は、労働者名簿と賃金台帳だけではありません。第109条は「雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類」も対象に挙げています。
AIが間違えやすい5つのポイント
1. 「保存期間は3年」または「5年」とだけ答える
第109条の本文は「5年間」です。第143条第1項が、当分の間これを「3年間」と読み替えています。どちらか一方だけを答えると、根拠を確かめる人が混乱します。正しくは「条文上は5年、経過措置により当分の間は3年」です。社内規程で長めに保存すると決めることは、条文と矛盾しません。
2. 「入社日から数える」と答える
起算日は、施行規則第56条第1項が書類ごとに定めています。
- 労働者名簿:労働者の死亡、退職または解雇の日
- 賃金台帳:最後の記入をした日
- 雇入れ・退職に関する書類:労働者の退職または死亡の日
- 災害補償に関する書類:災害補償を終わった日
- 賃金その他労働関係に関する重要な書類:その完結の日
在職中の人の労働者名簿は、まだ数え始めてもいません。入社日から3年で捨てると、条文に反するおそれがあります。
3. 「最後に記入した日から数えればよい」で止まる
施行規則第56条第2項には続きがあります。賃金台帳などに書いた賃金の支払期日が、最後の記入日より遅い場合は、支払期日を起算日にします。たとえば月末締め・翌月25日払いで、最後の記入が25日より前なら、25日から数えることになります。同条第3項は、年次有給休暇管理簿などにもこの規定を準用しています。
4. 「名簿は会社に1つあれば足りる」と答える
第107条第1項と第108条は、どちらも「各事業場ごとに」作るよう定めています。本社だけでまとめていると、条文の求める形になりません。また、労働者名簿には氏名・生年月日・履歴のほか、施行規則第53条第1項が定める次の事項を記入します。
- 性別、住所、従事する業務の種類
- 雇入れの年月日
- 退職の年月日と事由(解雇の場合はその理由を含む)
- 死亡の年月日と原因
常時30人未満の事業で省略できるのは「従事する業務の種類」だけです(第53条第2項)。
5. 「賃金台帳は氏名と支給額があれば足りる」と答える
施行規則第54条第1項は、労働者ごとに次の事項を記入するよう定めています。
- 氏名、性別、賃金計算期間
- 労働日数、労働時間数
- 時間外労働・休日労働・深夜労働(午後10時〜午前5時)の時間数
- 基本給・手当など賃金の種類ごとの額
- 第24条第1項により賃金の一部を控除した場合は、その額
支給額だけの一覧では足りません。なお、第41条に当たる人などは、労働時間数と時間外・休日・深夜の時間数の記入を要しないとされています(同条第5項)。
AIに正しく答えさせる手順
手順1:条文を貼って答えさせる
e-Gov法令検索から第109条・第143条と施行規則第56条をコピーして貼ります。「この条文だけを根拠に答えてください」と指示します。AIの記憶に頼らせないことが目的です。
手順2:経過措置を必ず確認させる
「本則と附則(経過措置)の両方を確認し、読み替えがあれば示してください」と指示します。第143条のような読み替え規定は、本文だけを読むと見落とします。
手順3:書類ごとに起算日を表にさせる
社内の書類一覧を貼り、「書類名・第109条の区分・起算日・廃棄してよい最も早い日」の表を作らせます。支払期日が記入日より遅い書類には、印を付けさせます。
手順4:検証用の質問で確かめる
次の3問を同じAIに聞き、条文どおりに答えるかを確かめます。
- 在職10年の人の労働者名簿は、いつから保存期間を数えますか。
- 翌月25日払いの賃金台帳は、どの日から数えますか。
- 従業員20人の事業で、労働者名簿の「業務の種類」は省略できますか。
1問でも外れたら、そのプロンプトは使いません。
手順5:判断が分かれる点は専門家に確認する
「労働関係に関する重要な書類」にどの書類が当たるかや、「完結の日」がいつかは、条文だけでは判断しきれません。廃棄の運用を決める前に、社会保険労務士や労働基準監督署に確認します。
まとめ
- 保存期間は、条文上5年(第109条)で、当分の間は3年と読み替えます(第143条第1項)。
- 起算日は書類ごとに違います。労働者名簿は退職・死亡・解雇の日、賃金台帳は最後の記入日です(施行規則第56条第1項)。
- 支払期日が記入日より遅ければ、支払期日から数えます(同条第2項)。
- 労働者名簿と賃金台帳は、事業場ごとに作ります(第107条・第108条)。
- 違反すると30万円以下の罰金です(第120条第1号)。
賃金請求権の時効は未払い賃金の時効の記事で、賃金からの控除は賃金控除の記事で、就業規則の作成義務は就業規則の記事で解説しています。
出典:労働基準法 第107条〜第109条・第120条・第143条(e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049、2026年7月17日施行版)、労働基準法施行規則 第53条〜第56条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023、2026年4月1日施行版)
AI Scout編集部
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