AIが「誓約書に署名があれば違約金は有効」と答える2026|労基法16条は違約金と賠償額の予定を禁止・実損の請求は別・前借金の相殺は17条で禁止、AIの誤りを見抜く5つの手順
AIに退職時の違約金を聞くと「署名があれば有効」「損害賠償は一切請求できない」と答えることがあります。労基法16条が禁じるのは違約金と賠償額の予定です。前借金の相殺禁止と罰則も含め、誤りを見抜く5つの手順を解説します。
「入社1年以内に辞めたら違約金30万円、と誓約書に書いて署名をもらえば有効か」とAIに聞くと、「本人が同意して署名していれば契約として有効です」と答えることがあります。逆に「労働基準法で禁止されているので、会社は社員に損害賠償を一切請求できません」と答えることもあります。
どちらも条文と合いません。労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金を定めること、または損害賠償額を予定する契約をすることを禁止しています。禁止されているのは「あらかじめ金額を決めておくこと」です。実際に生じた損害を、その額に応じて請求すること自体までは禁止していないと解されています。
この記事では、e-Gov法令検索で取得した労働基準法第13条・第16条・第17条・第119条の条文をもとに、AIが取り違えやすい点と、AIに正しく答えさせる手順を解説します。
賠償予定の禁止の基本ルール
| 項目 | 条文の内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 禁止される契約1 | 労働契約の不履行について違約金を定めること | 労基法第16条 |
| 禁止される契約2 | 労働契約の不履行について損害賠償額を予定する契約をすること | 労基法第16条 |
| 名あて人 | 使用者 | 労基法第16条 |
| 前借金との相殺 | 前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない | 労基法第17条 |
| 基準に達しない契約 | その部分は無効となり、法律で定める基準による | 労基法第13条 |
| 罰則 | 6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 | 労基法第119条第1号 |
ポイントは「契約をしてはならない」という書き方です。実際に請求したかどうかではなく、違約金や賠償額を予定する契約を結んだ時点で第16条に反します。
AIが取り違えやすい5つの点
1. 「本人が署名していれば有効」と答える
民法の契約自由の原則だけで答えると、こうなります。しかし第16条は使用者に対する禁止規定で、本人の同意があっても結んではならない契約です。第13条により、法律の基準に達しない部分は無効になります。署名の有無で結論は変わりません。
2. 「損害賠償は一切請求できない」と答える
反対方向の誤りです。第16条が禁じているのは、違約金を定めることと、賠償額を「予定」することです。社員の故意や過失で実際に損害が生じた場合に、その損害を立証して請求することまでは第16条の対象外と解されています。ただし、請求できる額は事情に応じて制限されることがあり、全額が当然に認められるわけではありません。
3. 「上限を決めておけば違約金ではない」と答える
「損害額は最大30万円までとする」のように、金額をあらかじめ決める定めも、賠償額の予定にあたるおそれがあります。条文は違約金と並べて「損害賠償額を予定する契約」を禁じています。名称を「上限」「手数料」に変えても、中身が予定額なら同じ問題になります。
4. 前借金を給与から差し引けると答える
入社時の貸付金を「毎月の給与から天引きして返してもらう」と答えるケースです。第17条は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺することを禁止しています。貸付自体が禁止されているわけではありませんが、賃金と相殺して回収することはできません。
5. 罰則を「30万円以下の罰金だけ」と答える
第16条と第17条の違反は、第120条ではなく第119条第1号の対象です。罰則は6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。2025年6月施行の刑法改正で「懲役」は「拘禁刑」に置き換わっています。古い資料を学習したAIは「懲役」と書くことがあります。
よくある質問と条文に沿った答え
| 質問 | AIの誤答例 | 条文に沿った答え |
|---|---|---|
| 早期退職の違約金を誓約書に書いてよいか | 署名があれば有効 | 違約金の定めは第16条で禁止。同意があっても結べない |
| 社員のミスで生じた損害は請求できるか | 一切請求できない | 実損の請求は第16条の対象外と解される。額は事情で制限されうる |
| 遅刻1回につき5,000円の罰金を決めてよいか | 就業規則に書けばよい | 違約金の定めにあたるおそれ。減給の制裁は第91条の上限内で別途扱う |
| 入社祝い金の貸付を給与から天引きできるか | 本人の同意があればよい | 労働を条件とする前貸債権と賃金の相殺は第17条で禁止 |
| 違反したときの罰則は | 30万円以下の罰金 | 6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(第119条第1号) |
AIに正しく答えさせる5つの手順
手順1:条文を貼り付けてから質問する
e-Gov法令検索で労働基準法第13条・第16条・第17条・第119条を開き、条文をそのまま貼り付けます。そのうえで「この条文だけを根拠に答えてください。条文にないことは『条文外』と書いてください」と指示します。民法の一般論だけで答えることを防げます。
手順2:「予定」と「実損」を分けて答えさせる
「あらかじめ金額を決める定め」と「実際に生じた損害の請求」を、別の行に分けて答えさせます。両方を「損害賠償」とひとまとめにした回答は、手順1からやり直します。
手順3:確認問題を5問解かせる
| 確認問題 | 正解 |
|---|---|
| 本人の署名があれば違約金の定めは有効か | 無効。第16条は同意の有無を問わない |
| 第16条は実損の請求も禁止しているか | 禁止しているのは違約金と賠償額の予定 |
| 前貸債権と賃金の相殺は認められるか | 認められない(第17条) |
| 第16条違反の罰則は何条か | 第119条第1号 |
| 罰則の刑の種類は | 6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
1問でも外れたら、そのプロンプトは使いません。
手順4:誓約書の条項を1行ずつ判定させる
手元の誓約書や就業規則の条項を1行ずつ貼り、「違約金の定め」「賠償額の予定」「前貸債権との相殺」「該当なし」の4分類で判定させます。理由欄に条文番号が入っていない判定は採用しません。
手順5:研修費用や実損の請求は専門家に確認する
研修費用や留学費用の返還条項が第16条にあたるかは、費用の性質や返還の条件によって判断が分かれます。実損をどこまで請求できるかも、個別の事情で変わります。AIの回答はたたき台として使い、社会保険労務士や弁護士、労働基準監督署に確認してから運用してください。
まとめ
- 労働契約の不履行について、違約金を定めることも、損害賠償額を予定する契約をすることも禁止です(第16条)。
- 本人の同意や署名があっても、法律の基準に達しない部分は無効です(第13条)。
- 禁止されているのは「予定」で、実際の損害を請求すること自体は対象外と解されています。
- 労働を条件とする前貸債権と賃金の相殺は禁止です(第17条)。
- 違反すると6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です(第119条第1号)。
損害額を給与から天引きできるかは全額払いの記事で、減給の制裁の上限は減給の制裁の記事で、退職の申し出の期限は退職の申し出の記事で解説しています。
出典:労働基準法 第13条・第16条・第17条・第119条(e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049、2026年7月17日施行版)
AI Scout編集部
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