AIが有給休暇をフルタイム基準で計算してしまう2026|週3日パートに10日と答えて実際は5日、10人で36万円払いすぎるのを防ぐ5つの手順
AIに有給の付与日数を聞くと正社員基準の10日が返ります。週3日勤務なら正解は5日で、10人なら36万円の払いすぎです。週30時間の境界と年5日義務の判定まで、防ぐ5つの手順を解説します。
「週3日勤務のパートさんに、入社6か月で有給を何日付与すればいいですか」とAIに聞くと、「年次有給休暇は入社6か月で10日付与されます」という答えが返ってくることがあります。労働基準法39条の条文としては正しい説明です。しかし週3日勤務の人に当てはめると、正解は5日です。10人に同じ誤りを重ねると、36万円を払いすぎることになります。
原因ははっきりしています。年次有給休暇には、フルタイムの労働者に適用する通常の付与日数と、所定労働日数が少ない労働者に適用する比例付与の2つの表があるからです。AIは勤務日数の条件を渡されないと、知名度の高い「6か月で10日」のほうを答えます。しかもこの誤りは、年5日の取得義務の対象判定にまで連鎖します。
この記事では、数字のずれがどこで生まれるのかを追い、AIに有給の日数を計算させるときの指示の組み立て方を5つの手順にまとめます。
週3日パートの有給が10日と5日に分かれる理由
まず、ずれが生まれる過程を具体的な数字で追います。前提は、週3日勤務・1日6時間・時給1,200円のパート社員です。入社から6か月が経ち、出勤率は9割を超えています。
AIが「入社6か月」だけを見て答えた場合、付与日数は10日になります。労働基準法39条1項の原則どおりの数字です。
実務の手順では、先に比例付与の対象かどうかを判定します。この社員の週所定労働時間は6時間×3日=18時間です。30時間未満なので比例付与の対象になります。そのうえで週所定労働日数3日の欄を見ると、勤続6か月の付与日数は5日です。
差は5日です。日額賃金は1,200円×6時間=7,200円なので、1人あたり7,200円×5日=3万6,000円の過大付与になります。同じ条件のパートが10人いれば、3万6,000円×10人=36万円です。
有給は使われた分だけ賃金が発生するため、過大に付けた日数はそのまま人件費になります。しかも一度付与を通知した有給を後から減らすのは、労働条件の不利益変更にあたる可能性があり、簡単には戻せません。
比例付与の日数表を数字で確認する
比例付与は、週の所定労働日数ごとに別々の日数が決まっています。AIに検算させるときの基準として、表の形で持っておくと確認が速くなります。
通常の付与(週30時間以上、または週5日以上)
勤続6か月=10日、1年6か月=11日、2年6か月=12日、3年6か月=14日、4年6か月=16日、5年6か月=18日、6年6か月以上=20日です。
比例付与(週30時間未満)
週4日(年間169日〜216日)の場合は、6か月=7日、1年6か月=8日、2年6か月=9日、3年6か月=10日、4年6か月=12日、5年6か月=13日、6年6か月以上=15日です。
週3日(年間121日〜168日)の場合は、6か月=5日、1年6か月=6日、2年6か月=6日、3年6か月=8日、4年6か月=9日、5年6か月=10日、6年6か月以上=11日です。
週2日(年間73日〜120日)の場合は、6か月=3日、1年6か月=4日、2年6か月=4日、3年6か月=5日、4年6か月=6日、5年6か月=6日、6年6か月以上=7日です。
週1日(年間48日〜72日)の場合は、6か月=1日、1年6か月=2日、2年6か月=2日、3年6か月=2日、4年6か月=3日、5年6か月=3日、6年6か月以上=3日です。
注目したいのは、週3日勤務では2年6か月と1年6か月がどちらも6日で据え置かれる点です。前年と同じ日数が並んでいても入力ミスとは限りません。AIに「前年と同じなのは誤りではないか」と聞き返すと、もっともらしく訂正してくる場合があるので注意します。
週4日勤務でも10日付与になる場合がある
逆方向のずれも起きます。比例付与の条件は「週の所定労働日数が少ないこと」だけではありません。週の所定労働時間が30時間未満であることが前提です。
例えば、週4日勤務・1日8時間・時給1,300円の社員を考えます。週所定労働時間は8時間×4日=32時間です。30時間以上なので比例付与の対象にはならず、通常の付与になります。入社6か月時点の付与日数は10日です。
ここでAIが「週4日だから比例付与で7日」と答えると、3日不足します。日額賃金は1,300円×8時間=1万400円なので、1人あたり1万400円×3日=3万1,200円の未付与です。5人いれば1万400円×3日×5人=15万6,000円になります。
不足のほうが過大付与より問題が重い場合があります。法定の日数を下回る付与は労働基準法39条違反にあたり、是正勧告の対象になるからです。過大に付けた場合は自社の負担で済みますが、不足は法違反になります。
つまり判定に必要な情報は「週の所定労働日数」と「週の所定労働時間」の2つです。片方だけをAIに渡すと、どちらの方向にもずれます。
AIが取り違える3つの地点
有給の付与日数をAIに計算させるとき、誤りが入り込む地点はほぼ3つに絞られます。どこで間違えたのかを特定できれば、修正は1行の追加指示で済みます。
1つ目:比例付与の判定そのものを飛ばす
最も多い地点です。勤続年数だけを渡すと、AIは通常の付与表を使います。「6か月で10日」は条文の代表例として学習データに多く現れるため、条件を絞らない限りこちらが出てきます。
2つ目:週30時間の境界を見ない
勤務日数だけで比例付与を判定してしまう誤りです。週4日でも8時間勤務なら通常付与になりますが、AIは「週4日=比例付与」と短絡しがちです。1日の所定労働時間を渡していない場合、AIは確認せずに推測で埋めます。
3つ目:出勤率8割の要件を計算に含めない
有給の付与には、全労働日の8割以上出勤していることという要件があります。週3日勤務で6か月の所定労働日数が78日なら、8割は62.4日です。出勤が60日なら出勤率は約76.9%で、要件を満たしません。AIは日数表だけを見て答えるため、この判定が抜け落ちます。
なお出勤率の計算では、業務上の負傷や疾病による療養期間、産前産後休業、育児・介護休業、年次有給休暇を取得した日は出勤したものとして扱います。単純な出勤日数の割り算をAIに任せると、この扱いが反映されません。
年5日の取得義務の対象判定まで連鎖する
付与日数の誤りは、それだけでは終わりません。年5日の取得義務の対象かどうかの判定にそのまま連鎖します。
年5日の取得義務は、年次有給休暇が10日以上付与された労働者が対象です。基準は勤務形態ではなく、その年に付与された日数です。
週4日勤務のパートの場合、付与日数が10日に達するのは勤続3年6か月の時点です。そこから義務の対象になります。週3日勤務なら、10日に達するのは勤続5年6か月の時点です。
ここでAIが2通りの誤りを出します。1つは「パートは対象外」と一律に切り捨てる誤りです。もう1つは、6か月時点の付与を10日と誤答した流れで「初年度から年5日の取得義務がある」と続ける誤りです。後者は、付与日数の誤りが判定に引き継がれた形です。
取得させなかった場合は、労働基準法39条7項の違反として、同法120条により30万円以下の罰金が定められています。罰金は対象となる労働者ごとに算定されるため、判定の誤りが複数人に及ぶと影響が広がります。
付与日数と義務の判定は、必ず順番に切り離して確認します。まず日数を確定し、そのあとで10日以上かどうかを見ます。1つの質問でまとめて聞くと、誤った日数の上に判定が積み上がります。
誤りを防ぐ5つの手順
ここまでの内容を、AIに指示を出すときの手順に整理します。順番に意味があります。
手順1:週の所定労働日数と所定労働時間を両方渡す
「週3日勤務のパート」ではなく「週3日勤務、1日6時間、週所定労働時間18時間」と書きます。判定に必要な2つの数字を最初に渡せば、AIが推測で埋める余地がなくなります。
手順2:比例付与の対象かどうかを先に1行で答えさせる
日数を聞く前に、「この社員は比例付与の対象ですか。週所定労働時間が30時間未満かどうかで答えてください」と分けて聞きます。判定の根拠が1行で出てくるので、間違っていればその場で止められます。
手順3:使った表と行を明示させる
「どの表の、週何日の行、勤続何年何か月の列を使ったかを書いてください」と指示します。表の指定が出てくれば、こちらの手元の表と1対1で照合できます。数字だけが返ってくる回答は照合できません。
手順4:出勤率の判定を別の質問にする
付与日数と出勤率は別の計算です。「所定労働日数78日、出勤日数65日のとき出勤率は何%で、8割の要件を満たしますか」と独立して聞きます。65日÷78日=約83.3%なので要件を満たす、というように、割り算の過程まで出させます。
手順5:年5日の取得義務は付与日数を確定してから聞く
付与日数が確定したあとで、「この付与日数は10日以上ですか。年5日の取得義務の対象になりますか」と聞きます。日数を先に固定することで、誤った前提が判定に流れ込むのを防げます。
チェックに使える3つの見分け方
AIの出力を受け取ったあと、短時間で怪しさを判定する方法を挙げます。
1つ目は、答えに「10日」が入っているかどうかです。パートやアルバイトの初回付与で10日が出てきたら、週30時間以上の勤務でない限り誤りです。この数字は通常付与の代表値なので、条件を無視した回答の目印になります。
2つ目は、根拠に所定労働時間が出てくるかどうかです。「週4日勤務のため比例付与」とだけ書かれていたら、30時間の境界を見ていません。所定労働時間に触れていない根拠は、判定の半分が抜けています。
3つ目は、勤続年数ごとの日数が単調に増え続けていないかです。週3日勤務では1年6か月と2年6か月がどちらも6日、週1日勤務では1年6か月から3年6か月まで2日が続きます。すべての年で1日ずつ増える表が出てきたら、AIが規則性を推測して生成した可能性があります。
よくある質問
Q. 所定労働日数が年によって変わる場合はどう判定しますか
比例付与の判定は、付与日の時点の所定労働日数で行います。週の所定労働日数が定まらない場合は、年間の所定労働日数で判定します。年間121日〜168日なら週3日の欄、年間169日〜216日なら週4日の欄です。AIに聞くときは、どちらの基準で判定してほしいかを明示します。
Q. 途中で週3日から週5日に増えた場合、過去の付与日数は変わりますか
すでに付与された日数は変わりません。次の付与日の時点の所定労働日数で、その回の付与日数を判定します。AIは「増えたので遡って増やす」と答えることがあるため、付与日を基準に判定する旨を指示に含めます。
Q. 半日単位や時間単位の有給はこの日数に含まれますか
付与の単位は日です。時間単位の有給は労使協定により年5日以内の範囲で取得できますが、付与日数そのものは日数表のとおりです。年5日の取得義務の消化としては、時間単位の取得はカウントされません。この点もAIが取り違えやすいので、消化の集計を任せるときは単位を指定します。
まとめ
有給休暇の付与日数でAIが間違えるのは、計算が苦手だからではありません。「入社6か月で10日」という広く知られた原則が、条件を渡さない限り優先して出てくるからです。実務では、週の所定労働日数と所定労働時間の2つで比例付与の対象かを判定し、該当する表の行を引きます。
週3日・1日6時間のパートに10日を付与すると、正解の5日との差は5日です。日額7,200円なら1人3万6,000円、10人で36万円の払いすぎになります。逆に週4日・1日8時間の社員を比例付与と判定すると3日不足し、1人3万1,200円、5人で15万6,000円の未付与となって、こちらは法違反にあたります。
防ぐ手順は、週の所定労働日数と所定労働時間を両方渡す、比例付与の対象かを先に1行で答えさせる、使った表と行を明示させる、出勤率の判定を別の質問にする、年5日の取得義務は付与日数を確定してから聞く、の5つです。今日の1件から、勤務条件の2つの数字を最初に渡すところだけでも変えてみてください。
なお、具体的な制度運用や個別の判断については、社会保険労務士など専門家の確認を受けることをおすすめします。この記事は、AIの出力を検算するための手順を示すものです。
AI Scout編集部
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