AIが深夜残業の割増率を25%で計算してしまう2026|正しくは50%、時給1,500円の社員10人で年90万円の未払いになるのを防ぐ5つの手順
AIに深夜残業の割増賃金を計算させると、25%の1本だけで答えることがあります。時間外と深夜は重なると50%です。ずれの仕組みと、AIに正しく計算させる5つの手順を解説します。
「22時から24時まで残業した社員の割増賃金を計算して」とAIに頼むと、「時間外労働なので25%増しです」と答えることがあります。一見もっともらしい答えですが、この2時間は時間外であり、同時に深夜でもあります。
労働基準法37条では、時間外労働と深夜労働(22時〜翌5時)にそれぞれ25%以上の割増が定められています。両方に当てはまる時間は、割増率を足して50%以上で計算します。AIが「どちらか一方」の率だけを使うと、1時間あたり25%分が抜け落ちます。
この記事では、ずれがどこで生まれるのかを数字で追い、AIに割増賃金を計算させるときの指示の組み立て方を5つの手順にまとめます。
時給1,500円の深夜残業が1,875円と2,250円に分かれる理由
まず、具体的な数字でずれを確認します。前提は、割増の基礎となる1時間あたりの賃金が1,500円の社員です。月給24万円(割増の基礎に含める賃金のみ)を、月平均所定労働時間160時間で割った額です。
この社員が、所定の終業時刻を過ぎて22時〜24時に2時間働いたとします。この2時間は法定労働時間を超えた時間外労働で、かつ深夜の時間帯です。
- AIが時間外の25%だけを使った場合:1,500円×1.25=1,875円
- 時間外25%と深夜25%を合算した場合:1,500円×1.50=2,250円
差は1時間あたり375円です。月20時間の深夜残業がある社員なら月7,500円、10人いれば月7万5,000円です。12か月で年90万円の不足になります。
未払いの割増賃金は、後から請求されれば支払う必要があります。賃金請求権の消滅時効は当分の間3年とされており、気づくのが遅れるほど遡る金額は大きくなります。
AIが割増率を1本しか使わない3つの原因
ずれの原因は計算力ではありません。多くは、指示の出し方と前提の渡し方にあります。
原因1:「残業代」という言葉で時間外だけを連想する
「残業代を計算して」と聞くと、AIは時間外労働の割増率25%を真っ先に当てはめがちです。深夜の割増は時間外とは別の規定なので、時刻の情報がないと考慮されません。
原因2:勤務時刻ではなく時間数だけを渡している
「残業2時間」とだけ伝えると、AIはその2時間が何時台なのかを知りません。同じ2時間でも、18〜20時なら25%、22〜24時なら50%です。時刻がなければ、正しい率を選びようがありません。
原因3:「割増率は重ならない」と一般化してしまう
割増率には、重なるものと重ならないものがあります。時間外と深夜は重なります。一方、法定休日の労働が8時間を超えても、時間外の25%は上乗せされず35%のままです。この例外を一般化して「割増は1本だけ」と答えるケースがあります。
押さえておきたい割増率の組み合わせ
AIに渡す前提として、人間側で整理しておくべき組み合わせは次のとおりです。いずれも法律上の最低ラインです。
| 労働の種類 | 割増率(以上) |
|---|---|
| 時間外労働(月60時間以内) | 25% |
| 時間外労働(月60時間超の部分) | 50% |
| 深夜労働(22時〜翌5時) | 25% |
| 時間外+深夜(月60時間以内) | 50% |
| 時間外+深夜(月60時間超の部分) | 75% |
| 法定休日労働 | 35% |
| 法定休日労働+深夜 | 60% |
月60時間超の50%は、2023年4月から中小企業にも適用されています。ここを古い情報のまま25%で計算するAIの回答も見られるため、注意が必要です。
逆方向のずれもあります。法定休日に10時間働いた場合、8時間を超えた2時間に35%と25%を足して60%にするのは誤りです。深夜にかからない限り35%のままで、払いすぎになります。未払いほどの問題にはなりませんが、人件費の見積もりは狂います。
AIに割増賃金を正しく計算させる5つの手順
手順1:時間数ではなく打刻の時刻を渡す
「残業2時間」ではなく、「出勤9:00、退勤24:00、休憩1時間(12:00〜13:00)」のように時刻で渡します。AIが22時以降の時間を自分で切り出せるようになります。
手順2:時間を区分に分けるステップを先に切り出す
いきなり金額を出させず、最初に「通常時間」「時間外のみ」「時間外かつ深夜」「深夜のみ」の4区分に時間数を分けさせます。区分ごとの時間数を人間が確認してから、次の計算に進みます。
プロンプト例:「次の勤務記録を、所定内・時間外のみ・時間外かつ深夜・深夜のみの4区分に分け、区分ごとの合計時間を表で出してください。金額はまだ計算しないでください」
手順3:割増率の表を指示の中で明示する
AIの知識に頼らず、前の節の表をそのまま指示に含めます。自社で法定を上回る率を定めている場合は、就業規則の率を渡します。これで「25%の1本だけ」という答えは出にくくなります。
手順4:割増の基礎となる時間単価を内訳から出させる
時間単価を支給総額で割ると、別のずれが生まれます。労働基準法施行規則21条により、家族手当・通勤手当・住宅手当などは一定の条件で割増の基礎から除外できます。月給の内訳を渡し、除外した項目とその理由を一覧で出させてください。
手順5:月60時間の境界と管理監督者を確認させる
最後に、その月の時間外労働の累計が60時間を超えていないかを確認させます。超えた部分は率が変わります。また、管理監督者は時間外と休日の割増の対象外ですが、深夜の割増は対象です。「管理職だから深夜割増もなし」という答えが出ていないかも確認します。
検算のチェックリスト
AIの出した金額を受け取る前に、次の4点を人間が確認します。
- 22時〜翌5時にかかる時間が、区分表に深夜として計上されているか
- 時間外かつ深夜の時間に、50%(60時間超は75%)が使われているか
- 法定休日の8時間超に、35%を超える率を誤って足していないか
- 時間単価の分子から、除外できない手当まで除いていないか
1件でも手計算で同じ金額になることを確かめておくと、同じ指示を毎月使い回すときの安心材料になります。
勤怠・給与計算ツールと組み合わせる
割増率の判定は、本来は勤怠管理システムや給与計算ソフトが打刻データから自動で行う領域です。AIは、その結果の説明や、例外ケースの洗い出し、就業規則との照合に使うと効果的です。
シフト作成の段階から深夜帯の配置を管理したい場合は、TeamSpirit AIシフトエージェントのようなツールも選択肢です。関連する計算のずれは、最低賃金の時給換算の記事でも解説しています。
まとめ
時給1,500円の社員の深夜残業を、AIが時間外の25%だけで計算すると1,875円です。深夜の25%を合算した正しい金額は2,250円で、月20時間・10人なら年90万円の差になります。
防ぐ手順は、時刻で渡す、区分分けを先に切り出す、割増率の表を明示する、時間単価を内訳から出させる、60時間の境界と管理監督者を確認させる、の5つです。
なお、具体的な制度運用や個別の判断については、社会保険労務士など専門家の確認を受けることをおすすめします。
AI Scout編集部
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