AIが年払い契約の入金をMRRに一括計上してしまう2026|MRR254万円が416万円に見えるのを防ぐ5つの手順
AIに入金表からMRRを出させると、年払い契約の入金をその月に一括で足しがちです。MRR254万円が416万円に膨らみ、翌月は52%減に見える例と、防ぐ5つの手順を解説します。
「10月の入金データから、今月のMRRを出してください」とAIに頼むと、入金額の合計をそのままMRRとして返してくることがあります。月払いの顧客だけなら問題ありません。しかし年払いの契約が混ざると、数字は大きくずれます。
本記事の例では、正しいMRRは254万円です。ところが入金額で計算すると416万円になり、約1.64倍に見えます。翌月は逆に200万円まで落ち、「MRRが52%減った」という誤った報告になります。この記事では、AIが年払いの入金を一括計上してしまう理由と、防ぐための5つの手順を解説します。
MRR254万円が、入金ベースでは416万円に見える
MRR(Monthly Recurring Revenue)は、毎月くり返し発生する定期収益を月額に直した指標です。SaaSの成長を見るときの基本になります。一般には、年払いの契約は12で割って月額に直し、初期費用のような一回きりの売上は含めません。
説明のための例として、次の条件を置きます。金額はすべて税抜です。
- 月払いプラン: 月額1万円、契約200社
- 年払いプラン: 年額10万8,000円(月払いより10%割引)、契約60社
- 10月に年払いの請求・入金があったのは、60社のうち20社
- 解約と新規契約は、この2か月は発生していない
正しいMRRは254万円
| 区分 | 計算 | MRR |
|---|---|---|
| 月払いプラン | 1万円×200社 | 200万円 |
| 年払いプラン | 10万8,000円÷12か月×60社 | 54万円 |
| 合計 | — | 254万円 |
年払いの60社は、入金した月に関係なく、毎月9,000円ずつMRRに入ります。10月も11月も、MRRは254万円のままです。
入金額で数えると、10月は416万円、11月は200万円になる
| 月 | 入金ベースの計算 | AIが出す「MRR」 | 正しいMRR |
|---|---|---|---|
| 10月 | 200万円+10万8,000円×20社 | 416万円 | 254万円 |
| 11月 | 200万円+年払い入金なし | 200万円 | 254万円 |
10月は正しい値の約1.64倍です。年換算のARRにすると、4,992万円と表示されます。正しいARRは3,048万円なので、1,944万円も過大になります。
11月は年払いの入金がないため、200万円に下がります。10月と比べると約52%の減少です。実際には1社も解約していないのに、事業が急に縮んだように見えます。
ずれが意思決定に与える影響
10月の416万円を見て採用や広告費を増やすと、11月以降の計画が崩れます。逆に11月の200万円を見ると、不要なコスト削減に走るかもしれません。年払いの比率が高い会社ほど、月ごとの波は大きくなります。
AIが入金をMRRとして数えてしまう3つの理由
原因はAIの計算力ではありません。渡されたデータと言葉のあいまいさを、AIがもっともらしく補ってしまうことにあります。
理由1: 渡すデータが入金表だけになっている
会計ソフトや決済サービスから出しやすいのは、入金の一覧です。一覧には「いつ、いくら入ったか」しかありません。契約期間の列がなければ、AIは年払いかどうかを判断できません。その結果、その月に入った金額を全部足します。
理由2: 「今月の売上」と「MRR」を同じ意味として扱う
プロンプトに「今月の収益」「月の売上」と書くと、AIは入金額や請求額を答えがちです。MRRは月額に直した定期収益なので、どちらとも一致しません。言葉を混ぜると、AIは計算しやすい方を選びます。
理由3: 12で割る処理を指示しないと省略される
年払い契約を12で割るのは、SaaSでは当たり前の処理です。しかし当たり前だからこそ、プロンプトに書かれないことが多いです。AIは書かれていない処理を必ず補うとは限りません。
入金ベースの数字が正しい場面もある
入金額の合計は、資金繰りを見るときには正しい数字です。10月に416万円が口座に入ったことは事実で、支払い計画はこの金額で立てます。問題は、入金の数字を「成長の指標」として使ってしまうことです。
利益と手元資金のずれについては、AIが利益と手元資金を取り違える問題の記事で詳しく解説しています。なお会計上の売上も、年間サービスであれば提供期間に応じて按分して計上するのが一般的です。具体的な処理は、顧問の税理士や会計士に確認してください。
AIのMRR計算ミスを防ぐ5つの手順
手順1: 入金表ではなく契約一覧を渡す
MRRを出すときは、契約ごとの一覧をAIに渡します。最低限、次の列をそろえてください。
- 顧客ID
- プラン名
- 請求金額(税抜)
- 請求の周期(月払い・年払いなど)
- 契約開始日と終了日(解約日)
請求の周期の列があるだけで、AIが年払いを見分けられるようになります。
手順2: MRRの定義をプロンプトに書く
MRRの定義は会社によって少しずつ違います。そこで、自社の定義を毎回プロンプトに書きます。例えば次のように指示します。
- MRRは、対象月の末日に有効な契約の月額換算の合計とする
- 年払いは請求金額を12で割り、四半期払いは3で割る
- 初期費用・スポットの作業費・消費税は含めない
- 割引後の実際の請求金額を使い、定価は使わない
手順3: 初期費用と定価を混ぜないよう明示する
入金表には初期費用も混ざっています。例えば10月に新規4社から初期費用5万円ずつ、計20万円が入っていたとします。これを足すと、入金ベースの数字は436万円になり、正しいMRRの約1.72倍に広がります。
定価を使うミスもよく起きます。年払い60社を定価の月1万円で数えると、MRRは60万円になります。割引後の9,000円で数えた54万円より、月に6万円、年に72万円の過大です。
手順4: 12か月の合計で検算させる
解約や新規が少ない期間なら、簡単な検算ができます。年払い60社が12か月で支払う金額は、10万8,000円×60社で648万円です。これは年払い分のMRR54万円×12か月の648万円と一致します。
AIには「過去12か月の定期課金の入金合計と、MRR×12を並べて比べる」ように指示します。大きく食い違えば、どこかで一括計上や重複が起きています。
手順5: 区分ごとの内訳と前月差を出させる
合計だけを出させると、ずれに気づけません。AIには次の形で出力させます。
| 区分 | 社数 | 月額換算の単価 | MRR | 前月差 |
|---|---|---|---|---|
| 月払い | 200社 | 1万円 | 200万円 | 0円 |
| 年払い | 60社 | 9,000円 | 54万円 | 0円 |
| 合計 | 260社 | — | 254万円 | 0円 |
前月差は、新規・アップグレード・ダウングレード・解約の4つに分けさせると、さらに確認しやすくなります。解約が0社なのにMRRが52%減っていたら、計算方法を疑うきっかけになります。
そのまま使えるプロンプトのテンプレート
最後に、ここまでの手順をまとめたテンプレートを紹介します。自社の定義に合わせて書き換えて使ってください。
添付の契約一覧から、2026年10月末時点のMRRを計算してください。
・MRRは、10月末に有効な契約の月額換算の合計です。入金額や請求額の合計ではありません。
・年払いは請求金額を12で、四半期払いは3で割ってください。
・初期費用、スポット作業費、消費税は含めないでください。
・割引後の請求金額を使ってください。
・結果は請求周期ごとに、社数・月額換算の単価・MRR・前月差を表で出してください。
・前月差は新規・アップグレード・ダウングレード・解約に分けてください。
・最後に、過去12か月の定期課金の入金合計とMRR×12を並べて、差が大きい場合は理由を書いてください。
ツールでMRRを自動集計する方法もある
契約数が数百社を超えると、毎月AIに表を渡すのも手間になります。サブスクリプション管理ツールや請求管理ツールの多くは、契約データからMRRを自動で集計できます。ツールの比較はサブスクリプション請求管理プラットフォームの比較記事を参考にしてください。
MRRを正しく出せたら、次は解約率やLTVの計算です。月次解約率と年次解約率の取り違えや、LTVを売上で計算してしまう問題も、同じようにAIが間違えやすいポイントです。
まとめ
AIに入金表からMRRを出させると、年払いの入金をその月に一括で足してしまうことがあります。本記事の例では、正しいMRR254万円が10月は416万円、11月は200万円に見えました。解約が1社もないのに、52%減という誤った報告になります。
防ぐ方法は5つです。入金表でなく契約一覧を渡す、MRRの定義を書く、初期費用と定価を混ぜない、12か月の合計で検算させる、区分ごとの内訳と前月差を出させる。この5つをテンプレートにしておけば、成長の指標を毎月ぶれずに追えます。
AI Scout編集部
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