AIが「下請け社員の現場のけがは下請け会社だけが補償・治療費は健康保険で」と答える2026|労基法75条は使用者の費用で療養・87条は建設業の数次請負で元請を使用者とみなす・85条で審査仲裁
労基法75条は業務上のけがの療養を使用者の費用で行うと定めます。87条は建設業の数次請負で元請負人を災害補償の使用者とみなし、85条は補償の異議を行政官庁へ審査・仲裁申立てできるとします。
「下請け会社の社員が現場でけがをしたら、補償するのは下請け会社だけです」「業務中のけがでも、治療費は本人の健康保険で払えばよい」とAIが答えることがあります。どちらも労働基準法の条文とは合いません。
この記事では、業務上のけがや病気の治療を定める労働基準法第75条と、補償をめぐる争いの手続きを定める第85条・第86条、建設業の請負の例外を定める第87条を条文で確認します。AIがよく間違える答えを、条文の文言で正します。
結論:条文で確認できる6つのこと
- 労働者が業務上けがをしたり病気にかかったりしたとき、使用者は自分の費用で必要な療養を行うか、療養の費用を負担します(第75条第1項)。
- 療養の範囲は、診察、薬剤、手術などの治療、自宅での看護、入院、移送の6つです(施行規則第36条)。
- 就業中や事業場内でけがをしたときは、使用者は遅滞なく医師に診断させます(施行規則第37条)。
- 建設業が数次の請負で行われるとき、災害補償については元請負人が使用者とみなされます(第87条第1項・施行規則第48条の2)。
- 元請負人が書面の契約で下請負人に補償を引き受けさせたときは、その下請負人も使用者になります。ただし同じ事業で2以上の下請負人に重複して引き受けさせることはできません(第87条第2項)。
- 補償に異議がある人は、行政官庁に審査や仲裁を申し立てられます。結果に不服があれば労働者災害補償保険審査官に申し立てられます(第85条・第86条)。
条文を確認する
労働基準法第75条(療養補償)
労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
第2項は、業務上の疾病と療養の範囲を厚生労働省令で定めるとしています。施行規則第35条は、業務上の疾病を別表第一の二に掲げる疾病としています。
労働基準法施行規則第36条(療養の範囲)
療養の範囲は、療養上相当と認められる次のものです。
- 診察
- 薬剤又は治療材料の支給
- 処置、手術その他の治療
- 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
- 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
- 移送
労働基準法第87条(請負事業に関する例外)
厚生労働省令で定める事業が数次の請負によつて行われる場合においては、災害補償については、その元請負人を使用者とみなす。
施行規則第48条の2は、この事業を法別表第一第三号の事業としています。別表第一第三号は「土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業」です。
第3項では、補償の請求を受けた元請負人は、補償を引き受けた下請負人にまず催告するよう請求できます。ただし、その下請負人が破産手続開始の決定を受けたときや、行方が知れないときは請求できません。
労働基準法第85条・第86条(審査及び仲裁)
業務上の負傷、疾病又は死亡の認定、療養の方法、補償金額の決定その他補償の実施に関して異議のある者は、行政官庁に対して、審査又は事件の仲裁を申し立てることができる。
行政官庁は、必要があれば職権で審査や仲裁を始められます(第85条第2項)。同じ事件で民事訴訟が起こされると、行政官庁は審査や仲裁をしません(第3項)。医師に診断や検案をさせることもできます(第4項)。申立ては、時効の完成猶予と更新については裁判上の請求とみなされます(第5項)。
第86条は、審査や仲裁の結果に不服がある人は労働者災害補償保険審査官に申し立てられると定めています。
AIがよく間違える答えと条文による訂正
誤り1:「下請けの社員のけがは下請け会社だけが補償する」
建設業が数次の請負で行われる場合、第87条第1項は災害補償について元請負人を使用者とみなします。下請け会社だけの問題とする答えは条文と合いません。
誤り2:「元請けが契約で下請けに任せれば、元請けは関係なくなる」
第87条第2項は、書面の契約で引き受けさせた下請負人「もまた」使用者とすると書いています。元請負人が外れるとは書かれていません。元請負人ができるのは、まず下請負人に催告するよう求めることです(第3項)。
誤り3:「どの業種でも元請けが責任を負う」
第87条の対象は、施行規則第48条の2で別表第一第三号の建設の事業に限られます。製造業やIT開発の多重下請けにそのまま当てはめる答えは、根拠の範囲を超えています。
誤り4:「業務中のけがでも治療費は健康保険で本人が払う」
第75条第1項は、使用者がその費用で療養を行うか、費用を負担すると定めています。本人の負担で済ませてよいとは書かれていません。労災保険との関係は休業補償の記事で扱っています。
誤り5:「補償で揉めたら裁判しかない」
第85条第1項は、業務上かどうかの認定や補償金額などに異議があれば、行政官庁に審査や仲裁を申し立てられると定めています。ただし、民事訴訟を起こした事件は審査や仲裁の対象から外れます(第3項)。
誤り6:「通院の交通費や自宅での看護は対象外」
施行規則第36条は、移送と、居宅での療養上の管理や看護を療養の範囲に含めています。いずれも「療養上相当と認められるもの」という条件が付きます。
違反したときの罰則
第119条第1号は、第75条から第77条までの違反を、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象にしています。療養補償も含まれます。誰が罰せられるかは両罰規定の記事で整理しています。
早見表
| 場面 | 条文の定め | 根拠 |
|---|---|---|
| 業務上のけが・病気 | 使用者の費用で療養、または費用を負担 | 第75条 |
| 療養の範囲 | 診察・薬剤・治療・居宅看護・入院・移送 | 施行規則第36条 |
| 就業中・事業場内のけが | 遅滞なく医師に診断させる | 施行規則第37条 |
| 建設業の数次請負 | 元請負人を使用者とみなす | 第87条第1項・施行規則第48条の2 |
| 書面で下請けに引き受けさせた | 下請負人も使用者。重複引受は不可 | 第87条第2項 |
| 補償に異議がある | 行政官庁に審査・仲裁、不服は労災保険審査官へ | 第85条・第86条 |
AIに質問するときのコツ
- 「労働基準法第75条と第87条、施行規則第36条と第48条の2を引用して答えて」と根拠を指定する
- 業種(建設業かどうか)と、請負の何次目の会社の社員かを伝える
- 「元請けは関係ない」という答えには、第87条第2項の「もまた」と第3項の催告に触れているかを確かめる
まとめ
- 業務上のけがや病気は、使用者の費用で療養を行うか費用を負担します(第75条)。
- 療養の範囲には居宅での看護や移送も入ります(施行規則第36条)。
- 建設業の数次請負では、災害補償について元請負人が使用者とみなされます(第87条第1項)。
- 書面で引き受けた下請負人も使用者になり、元請負人はまず催告を求められます(第87条第2項・第3項)。
- 補償の異議は行政官庁に審査・仲裁を申し立てられます(第85条・第86条)。
- 第75条の違反は、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象です(第119条第1号)。
AI Scout編集部
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