AIが採用コストを年収そのままで答えてしまう2026|5人採用で約471万円の予算不足を防ぐ5つの手順
AIに採用コストを聞くと、会社負担の社会保険料が抜けて年収だけを答えがちです。年収600万円は実際には約694万円。5人で約471万円不足する例と、防ぐ5つの手順を解説します。
「年収600万円で1人採用したら、年間いくらかかりますか」とAIに聞くと、「600万円です」という答えが返ってくることがあります。数字としては正しく見えますが、会社が実際に負担する金額ではありません。
本記事の前提で試算すると、会社の負担は約694万円です。差額の約94万円は、会社が半分を負担する社会保険料などの法定福利費です。5人採用すれば、差は約471万円に広がります。この記事では、AIが法定福利費を落とす仕組みと、高い年収では逆に過大に見積もってしまう上限の罠、そして防ぐ5つの手順を紹介します。
年収600万円の採用は、会社の負担では約694万円になる
説明のための例として、次の条件を置きます。料率は試算のための前提値です。実際の料率は年度・都道府県・業種によって変わるため、自社の数字に置き換えて使ってください。
- 月給50万円×12回、賞与なし(年収600万円)
- 健康保険(会社負担分): 5.00%
- 厚生年金保険(会社負担分): 9.15%
- 子ども・子育て拠出金: 0.36%
- 雇用保険(会社負担分): 0.90%
- 労災保険: 0.30%
健康保険・厚生年金・子ども・子育て拠出金は標準報酬月額を基準に計算します。雇用保険と労災保険は賃金総額を基準に計算します。ここでは標準報酬月額を月給と同額の50万円としています。
内訳は合計94万2,600円
| 項目 | 計算の基準 | 年間の会社負担 |
|---|---|---|
| 健康保険 | 50万円×5.00%×12か月 | 30万0,000円 |
| 厚生年金保険 | 50万円×9.15%×12か月 | 54万9,000円 |
| 子ども・子育て拠出金 | 50万円×0.36%×12か月 | 2万1,600円 |
| 雇用保険 | 600万円×0.90% | 5万4,000円 |
| 労災保険 | 600万円×0.30% | 1万8,000円 |
| 合計 | — | 94万2,600円 |
年収600万円に94万2,600円を足すと、694万2,600円です。年収に対する上乗せ率は15.71%になります。月に直すと、1人あたり約57万8,550円の負担です。
5人採用すると、約471万円足りなくなる
「年収600万円の人を5人採用する」という計画で、予算を3,000万円と置いたとします。実際に必要な金額は694万2,600円×5人で3,471万3,000円です。差額は471万3,000円で、1人分の年収に近い金額が不足します。
この不足は、採用の意思決定をした時点では見えません。入社して最初の社会保険料の納付が始まってから、資金繰り表とのずれとして表面化します。採用計画を立て直す時期としては遅すぎます。
AIが法定福利費を落とす3つの理由
AIが答えを間違えるのは、計算力の問題ではありません。質問のどこが曖昧かを、AIが補ってしまうことが原因です。
理由1: 「コスト」が誰から見たコストか決まっていない
「年収600万円のコスト」という言葉は、本人が受け取る額とも、会社が支払う額とも読めます。AIは短く答えようとして、質問文に出てきた600万円をそのまま返すことがあります。求人票の年収と会社の負担額は別の数字だという前提が、質問に書かれていないためです。
理由2: 料率が地域・業種・年度で変わるため、断定を避ける
健康保険料率は都道府県ごとに異なり、労災保険料率は業種ごとに異なります。どちらも年度で改定されます。AIは特定の料率を断定しにくいため、法定福利費の項目自体を省いて答えてしまうことがあります。
理由3: 一律の上乗せ率を覚えてしまう
「人件費は年収の1.2倍から1.3倍」といった目安は広く使われています。AIがこの目安をそのまま当てはめると、年収帯によっては大きくずれます。次の節で見るとおり、高い年収ほど上乗せ率は下がります。
高い年収では、一律の上乗せ率が逆に過大になる
厚生年金保険の標準報酬月額には上限があります。ここでは上限を65万円として試算します。月給がこれを超えても、厚生年金と子ども・子育て拠出金の計算基準は65万円で止まります。健康保険の上限はもっと高いため、こちらは上限に当たりにくい水準です。
この上限があるため、年収が上がるほど、年収に対する法定福利費の割合は下がります。前提料率で計算すると次のようになります。
| 年収 | 月給 | 会社負担(前提料率で計算) | 年収比 | 15.71%を一律適用した場合の差 |
|---|---|---|---|---|
| 300万円 | 25万円 | 47万1,300円 | 15.71% | 差なし |
| 450万円 | 37.5万円 | 70万6,950円 | 15.71% | 差なし |
| 600万円 | 50万円 | 94万2,600円 | 15.71% | 差なし |
| 900万円 | 75万円 | 129万9,780円 | 14.44% | 11万4,120円の過大 |
| 1,200万円 | 100万円 | 148万5,780円 | 12.38% | 39万9,420円の過大 |
| 1,800万円 | 150万円 | 179万1,780円 | 9.95% | 103万6,020円の過大 |
月給が上限の65万円を超えたところから、年収比が下がり始めます。年収1,800万円の役員クラスで一律15.71%を掛けると、約104万円を多く見積もることになります。役員報酬の水準を決める場面では、この過大分が判断を狂わせます。
つまり誤差は一方向ではありません。一般社員の採用計画では法定福利費を落として過少に、高い年収の採用や役員報酬の試算では上限を無視して過大になります。「AIは人件費を少なく見積もる」とだけ覚えていると、後者の誤りを見逃します。
取り違えを防ぐ5つの手順
AIに採用コストを計算させるときは、質問の段階で前提を渡します。次の5つを順に組み込みます。
手順1: 「会社が支払う総額」と明示する
「本人の年収ではなく、会社が負担する年間総額を出してください」と書きます。求める数字がどちら側のものかを最初に決めるだけで、答えの構造が変わります。
手順2: 料率を自分で指定する
健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険・子ども・子育て拠出金の会社負担率を、数字でプロンプトに書きます。自社の料率は、直近の社会保険料の納入告知書や給与計算ソフトの設定画面で確認できます。AIに料率を推測させないことが、再現性を上げる近道です。
手順3: 月給と賞与の内訳を渡す
年収だけを渡すと、AIは年収に率を掛ける計算をします。標準報酬月額は月給から決まるため、月給と賞与の回数・金額を分けて書きます。賞与がある場合は、月給部分と賞与部分を分けて計算するよう指示します。
手順4: 標準報酬月額の上限を前提に書く
「厚生年金の標準報酬月額の上限は65万円として計算してください」と一文を添えます。上限を書いておけば、高い年収でも過大な数字が出ません。上限に当たったかどうかを回答に明記させると、さらに確認しやすくなります。
手順5: 項目別の内訳を必ず出させる
合計額だけでなく、項目ごとの金額を表で出させます。内訳があれば、どの項目が抜けているか、どの料率が自社と違うかを一目で確認できます。合計だけの回答は、検算ができないため使えません。
そのまま使えるプロンプト例
次のプロンプトは、5つの手順をまとめたテンプレートです。料率と金額を自社の数字に置き換えて使えます。
次の条件で、会社が負担する年間の総人件費を計算してください。
本人の年収ではなく、会社が支払う総額を求めます。
【給与】
・月給: 50万円 × 12か月
・賞与: なし
・年収: 600万円
【会社負担の料率(当社の前提値)】
・健康保険: 5.00%(標準報酬月額ベース)
・厚生年金保険: 9.15%(標準報酬月額ベース、上限65万円)
・子ども・子育て拠出金: 0.36%(標準報酬月額ベース、上限65万円)
・雇用保険: 0.90%(賃金総額ベース)
・労災保険: 0.30%(賃金総額ベース)
出力は次の形式でお願いします。
1. 項目別の年間会社負担額を表で(計算式も添える)
2. 法定福利費の合計と、年収に対する上乗せ率
3. 年収+法定福利費の総額と、月あたりの金額
4. 標準報酬月額の上限に当たったかどうか
5. この試算に含まれていない費用の一覧
5番目の項目を入れておくと、通勤手当や退職給付、健康診断費用、採用にかかる費用など、法定福利費以外の要素をAIが列挙してくれます。実際の採用予算では、これらも積み上げる必要があります。
回答を受け取ったときのチェックリスト
AIの回答を予算に使う前に、次の項目を確認します。
- 健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険・子ども・子育て拠出金の5項目がすべて並んでいるか
- 厚生年金の計算基準が、月給ではなく上限65万円で止まっているか(月給が上限を超える場合)
- 雇用保険と労災保険が、標準報酬月額ではなく賃金総額で計算されているか
- 料率が、こちらが指定した数字と一致しているか
- 合計額が、項目の足し算と一致するか
- 賞与がある場合、月給部分と分けて計算されているか
- 法定福利費以外の費用が、別枠で示されているか
よくある質問
「年収の1.2倍」という目安を使ってはいけないのですか
おおまかな見当をつける場面では使えます。ただし、この記事の前提料率では上乗せ率は15.71%なので、1.2倍という目安には法定福利費以外の費用も含まれていると考えられます。予算として社内で承認を取る段階では、項目を分けて積み上げます。
賞与があると計算はどう変わりますか
健康保険と厚生年金は、賞与にも標準賞与額を基準に保険料がかかります。賞与の分だけ会社負担も増えます。月給を下げて賞与を増やしても、会社負担が大きく減るわけではありません。プロンプトには賞与の回数と金額を必ず書きます。
40歳以上の社員では何が変わりますか
介護保険料が加わるため、会社負担はその分だけ増えます。年齢によって料率が変わることを、プロンプトに書いておきます。社員の年齢構成が偏っている会社では、平均の上乗せ率を1つ決めるより、年齢帯で分けて計算するほうが実態に近くなります。
Excelで検算するにはどうすればよいですか
月給をA1、年収をB1に入力します。標準報酬月額は「=MIN(A1,650000)」、厚生年金の会社負担は「=MIN(A1,650000)*0.0915*12」で計算できます。雇用保険は「=B1*0.009」です。50万円と600万円を入れると、それぞれ54万9,000円と5万4,000円になります。
まとめ
AIに採用コストを聞くと、会社負担の社会保険料が抜けて、年収がそのまま答えとして返ってくることがあります。この記事の前提では、年収600万円の実際の負担は約694万円です。5人採用すれば、約471万円の予算不足になります。
一方で、月給が標準報酬月額の上限を超える高い年収では、一律の上乗せ率を掛けると逆に過大な数字が出ます。年収1,800万円では約104万円の過大です。
防ぐ方法は5つです。会社が支払う総額だと明示する、料率を自分で指定する、月給と賞与の内訳を渡す、標準報酬月額の上限を前提に書く、項目別の内訳を出させる。この5つをテンプレートにしておけば、採用の意思決定をする時点で正しい金額を見られます。
AI Scout編集部
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