AIが「退職者の最終給与は次の給料日に払えばよい」と答える2026|労基法23条は請求から7日以内・争いのある部分は異議のない分だけ・退職金は規程の支払日、AIの誤りを見抜く5つの手順
AIに退職者の最終給与の支払時期を聞くと「通常の給料日でよい」「退職金も7日以内」と答えることがあります。労基法23条は請求があれば7日以内、争いがある部分は異議のない分を先に払う決まりです。誤りを見抜く5つの手順を解説します。
「先月末で退職した社員から、未払いの給与を今すぐ払ってほしいと言われた。次の給料日まで待ってもらえるか」とAIに聞くと、「賃金は毎月一回の一定期日に支払えばよいので、通常の給料日で問題ありません」と答えることがあります。逆に「退職金も退職から7日以内に支払わなければなりません」と答えることもあります。
どちらも条文と合いません。労働基準法第23条第1項は、労働者が退職または死亡した場合に、権利者から請求があったときは7日以内に賃金を支払い、積立金・保証金・貯蓄金など労働者の権利に属する金品を返還することを使用者に義務づけています。毎月一回の一定期日払いを定める第24条第2項とは別の決まりです。一方で退職金は、就業規則などで支払時期を定めていれば、その時期に支払えば足りるとされています。
この記事では、e-Gov法令検索で取得した労働基準法第23条・第24条・第25条・第115条・第120条の条文をもとに、AIが取り違えやすい点と、AIに正しく答えさせる手順を解説します。
退職時の金品返還の基本ルール
| 項目 | 条文の内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 対象となる場面 | 労働者の死亡または退職の場合 | 労基法第23条第1項 |
| いつまでに | 権利者の請求があった場合、請求から7日以内 | 労基法第23条第1項 |
| 何を | 賃金の支払いと、積立金・保証金・貯蓄金その他名称を問わず労働者の権利に属する金品の返還 | 労基法第23条第1項 |
| 金額に争いがあるとき | 異議のない部分を7日以内に支払い、または返還する | 労基法第23条第2項 |
| 請求がないとき | 毎月一回以上、一定の期日を定めて支払う通常のルールによる | 労基法第24条第2項 |
| 在職中の前払い | 出産・疾病・災害などの費用に充てるために請求されたときは、支払期日前でも既往の労働に対する賃金を支払う | 労基法第25条 |
| 罰則 | 第23条から第27条までの違反は30万円以下の罰金 | 労基法第120条第1号 |
ポイントは「請求があった場合」という条件です。退職者が請求しなければ、使用者は通常の支払日に支払えばかまいません。請求があった時点で、7日以内という期限が動き出します。
AIが取り違えやすい5つの点
1. 「給料日まで待ってもらえる」と答える
第24条第2項の「毎月一回以上、一定の期日を定めて支払う」だけを根拠に答えると、こうなります。しかし第23条第1項は、退職者から請求があった場合に7日以内の支払いを求めています。給料日が請求から7日より後であれば、給料日を待つことはできません。
AIは「賃金の支払時期」と聞かれると第24条を引きがちです。退職と請求という2つの事実があるときは、第23条が優先して適用されます。
2. 「退職金も7日以内」と答える
第23条の条文には「賃金」と「労働者の権利に属する金品」としか書かれていません。退職金を含めて読むAIが出てきます。
行政解釈では、退職金は就業規則や退職金規程で支払時期が定められていれば、その時期に支払えば足りるとされています。「退職後3か月以内に支払う」と規程にあれば、7日以内でなくてもかまいません。なお、この扱いは条文ではなく行政通達によるものです。規程に支払時期の定めがない場合の扱いは、社会保険労務士などに確認してください。
3. 「金額に争いがあるので全部保留する」と答える
未払い残業代の金額をめぐって退職者と意見が食い違うことがあります。このときAIは「争いが解決するまで支払いを保留できます」と答えることがあります。
第23条第2項は、争いがある場合でも異議のない部分は7日以内に支払うことを求めています。基本給の未払い分に争いがなければ、その部分は先に支払います。残業代の争いを理由に全額を止めることはできません。
4. 「在職中でも請求があれば7日以内に払う」と答える
第23条の7日以内は、死亡または退職の場合に限った決まりです。在職中の社員が「給料日前に払ってほしい」と言ってきた場面に当てはめるのは誤りです。
在職中の前払いは第25条の非常時払いで扱います。出産・疾病・災害など厚生労働省令で定める非常の場合に、その費用に充てるために請求されたときは、支払期日前でも既往の労働に対する賃金を支払う必要があります。対象はすでに働いた分だけで、これから働く分の前借りではありません。また、7日以内という期限は第25条にはありません。
5. 「社内預金は会社の規程どおりの時期に返せばよい」「死亡退職は対象外」と答える
第23条第1項は「積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品」を返還の対象にしています。社内預金や積立金に会社独自の名前がついていても、労働者の権利に属するものなら請求から7日以内に返還します。
また、条文は「死亡又は退職」と書いています。社員が亡くなった場合も対象で、遺族など権利者からの請求があれば7日以内に支払い・返還します。「退職届が出ていないので対象外」という整理は条文に合いません。
具体例:10月15日に退職した社員が10月20日に請求した場合
月末締め・翌月25日払いの会社で、社員が10月15日に退職し、10月20日に「10月1日から15日までの給与を払ってほしい」と請求したとします。
| 項目 | AIの誤答 | 条文どおりの扱い |
|---|---|---|
| 10月1日〜15日分の給与 | 11月25日の給料日に支払う | 請求から7日以内、10月27日までに支払う(第23条第1項) |
| 9月分の残業代に争いがある場合 | 解決まで9月分も10月分も保留 | 争いのない部分は10月27日までに支払い、争いのある部分だけ協議する(第23条第2項) |
| 社内積立金 | 積立金規程の返還日に返す | 請求があれば10月27日までに返還する(第23条第1項) |
| 退職金(規程で退職後3か月以内と定めあり) | 10月27日までに支払う | 規程の時期に支払えば足りる(行政解釈) |
| 退職者が何も請求しない場合 | それでも7日以内に支払う | 通常の支払日である11月25日に支払えばよい(第24条第2項) |
なお、未払い賃金の請求権には時効があります。第115条は賃金の請求権を5年と定めていますが、附則第143条第3項により当分の間は3年、退職手当は5年です。7日を過ぎても請求権が消えるわけではなく、使用者側の義務違反が残ります。
AIに正しく答えさせる5つの手順
手順1:第23条と第24条第2項の条文を貼る
プロンプトの冒頭に、e-Gov法令検索から取得した第23条第1項・第2項と第24条第2項の条文をそのまま貼ります。「毎月一回の一定期日払い」と「請求から7日以内」の両方が目の前にあれば、AIはどちらが退職の場面に当てはまるかを判断できます。
手順2:「退職か在職か」「請求があったか」を前提に書く
第23条が動くのは「退職または死亡」かつ「請求があった」ときです。この2つを「社員は10月15日に退職済み。10月20日に本人から支払いの請求があった」のように、日付つきで明示します。前提があいまいだと、AIは在職中の非常時払いや通常の支払日の話に流れます。
手順3:3問テストで理解を確認する
本題に入る前に、次の3問を出して答えを確認します。
| 質問 | 正しい答え |
|---|---|
| 退職者から請求があったとき、賃金はいつまでに支払うか | 請求から7日以内(第23条第1項) |
| 金額に争いがあるとき、支払いを全部保留できるか | できない。異議のない部分は7日以内に支払う(第23条第2項) |
| 第23条に違反した場合の罰則は | 30万円以下の罰金(第120条第1号) |
1問でも外れたら、そのプロンプトは使いません。
手順4:支払期限の計算表を出させる
「退職日」「請求日」「請求から7日後の日付」「通常の給料日」「実際の支払期限」の5列で表を出させます。「実際の支払期限」が通常の給料日になっていたら、第23条を見落としています。請求日が空欄のまま7日後を計算していたら、請求の有無を前提にしていません。
手順5:退職金と争いのある部分は専門家に確認する
退職金の支払時期は条文ではなく行政解釈で扱われ、規程の定め方によって結論が変わります。未払い残業代に争いがある場合は、異議のない部分の切り分け方も判断が要ります。AIの回答はたたき台として使い、社会保険労務士や労働基準監督署に確認してから支払い手続きを進めてください。
まとめ
- 退職または死亡した労働者の権利者から請求があったときは、7日以内に賃金を支払い、積立金・保証金・貯蓄金などを返還します(第23条第1項)。
- 請求がなければ、毎月一回以上の一定期日に支払う通常のルールによります(第24条第2項)。
- 金額に争いがあっても、異議のない部分は7日以内に支払います(第23条第2項)。
- 在職中の前払いは第25条の非常時払いで、7日以内という期限はありません。
- 退職金は規程で支払時期が定められていればその時期でよいとされていますが、これは行政解釈です。
- 違反すると30万円以下の罰金です(第120条第1号)。
賃金から損害額を天引きできるかは全額払いの記事で、未払い賃金の時効は時効の記事で、退職時に交付する証明書は退職証明書の記事で解説しています。
出典:労働基準法 第23条・第24条・第25条・第115条・第120条・附則第143条(e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049、2026年7月17日施行版)
AI Scout編集部
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