AIが賞与の社会保険料を上限なしで計算してしまう2026|賞与300万円で厚生年金を13万円多く天引きするのを防ぐ5つの手順
AIに賞与の社会保険料を計算させると、支給額にそのまま料率を掛けることがあります。厚生年金は1回150万円、健康保険は年度573万円が上限です。ずれの仕組みと5つの手順を解説します。
「賞与300万円の社会保険料を計算して」とAIに頼むと、「300万円×9.15%で、厚生年金保険料は27万4,500円です」と答えることがあります。計算式は正しそうに見えますが、この答えは上限を無視しています。
賞与の社会保険料は、支給額そのものではなく標準賞与額に料率を掛けて計算します。標準賞与額には、厚生年金で1か月あたり150万円、健康保険で年度累計573万円という上限があります。AIがこの上限を知らない、または使わないと、社員の給与明細から保険料を取りすぎます。
この記事では、ずれがどこで生まれるのかを数字で追い、AIに賞与の保険料を計算させるときの指示の組み立て方を5つの手順にまとめます。
賞与300万円で厚生年金が13万7,250円ずれる理由
まず、具体的な数字でずれを確認します。前提は、年2回賞与が出る会社で、夏の賞与が300万円の管理職です。厚生年金保険料率は18.3%で、会社と本人が半分ずつ負担します。本人負担分は9.15%です。
- AIが支給額にそのまま料率を掛けた場合:300万円×9.15%=27万4,500円
- 上限150万円を適用した場合:150万円×9.15%=13万7,250円
差は1人あたり13万7,250円です。同じ条件の管理職が10人いれば、1回の賞与で137万2,500円を取りすぎる計算になります。
厚生年金の上限は「1か月あたり」です。同じ月に2回に分けて支給しても、合計して150万円が上限になります。一方、夏と冬のように月が違えば、それぞれに150万円の上限がかかります。
健康保険は「年度の累計」で上限が決まる
健康保険(40〜64歳は介護保険も)の上限は、仕組みが違います。毎年4月1日から翌年3月31日までの累計で、標準賞与額573万円が上限です。
たとえば、夏に350万円、冬に300万円の賞与が出る役員がいるとします。夏は350万円がそのまま標準賞与額です。冬は573万円−350万円=223万円までしか対象になりません。
ここで、説明のために健康保険料率を仮に10%(本人負担5%)と置きます。実際の料率は加入先の協会けんぽの支部や健康保険組合ごとに違います。
- AIが冬の300万円に料率を掛けた場合:300万円×5%=15万円
- 累計上限を適用した場合:223万円×5%=11万1,500円
1回の支給額だけを見ていると、この上限には気づけません。AIに渡す情報に「その年度にすでに支給した賞与の額」がなければ、正しい計算はできません。
AIが上限を使わない3つの原因
ずれの原因は計算力ではありません。多くは、指示の出し方と前提の渡し方にあります。
原因1:「賞与額×料率」という単純な式で覚えている
賞与の保険料を「支給額×料率」と説明する情報は多くあります。多くの社員にとっては上限に届かないため、この式で困らないからです。AIもこの式をそのまま当てはめ、上限の確認を飛ばしがちです。
原因2:同じ年度・同じ月の支給履歴を渡していない
厚生年金は同じ月の合計、健康保険は年度の累計で上限を判定します。今回の賞与額だけを渡すと、AIは過去の支給を知りようがありません。判定に必要な材料が最初から欠けています。
原因3:月給の「標準報酬月額」と混同している
毎月の給与の保険料は、標準報酬月額という等級表で決まります。賞与を月給と同じ等級表に当てはめようとしたり、逆に月給の上限を賞与に使ったりする回答も見られます。賞与には等級表はなく、1,000円未満を切り捨てた額がそのまま標準賞与額です。
押さえておきたい賞与の保険料のルール
AIに渡す前提として、人間側で整理しておくべきルールは次のとおりです。
| 項目 | ルール |
|---|---|
| 標準賞与額 | 賞与額の1,000円未満を切り捨てた額 |
| 厚生年金の上限 | 1か月あたり150万円(同じ月の支給は合算) |
| 健康保険・介護保険の上限 | 年度(4月〜翌3月)の累計で573万円 |
| 厚生年金保険料率 | 18.3%(労使折半で本人9.15%) |
| 対象となる賞与 | 年3回以下の支給。年4回以上は標準報酬月額の側で扱う |
| 届出 | 支給日から5日以内に賞与支払届を提出 |
雇用保険は仕組みが異なり、標準賞与額や上限はありません。賞与の総額に雇用保険料率を掛けます。社会保険と同じ感覚で上限を当てはめると、今度は雇用保険料が不足します。
退職月の扱いにも注意が必要です。月の途中で退職し、資格を失った月に支給された賞与には、社会保険料がかかりません。月末退職なら資格喪失日は翌月1日なので、その月の賞与は対象です。
AIに賞与の保険料を正しく計算させる5つの手順
手順1:今回の賞与額と一緒に支給履歴を渡す
「今回300万円」だけでなく、「同じ月に支給済みの賞与」と「4月以降に支給済みの賞与の合計」を一緒に渡します。これで、AIが厚生年金と健康保険の上限を判定できるようになります。
手順2:標準賞与額を出すステップを先に切り出す
いきなり保険料を出させず、最初に標準賞与額だけを出させます。厚生年金用と健康保険用で値が変わることがあるため、2列で出させるのがポイントです。
プロンプト例:「次の賞与について、1,000円未満を切り捨てたうえで、厚生年金用の標準賞与額(月150万円上限)と健康保険用の標準賞与額(年度累計573万円上限)を2列の表で出してください。保険料はまだ計算しないでください」
手順3:料率は自社の数字を指示の中で渡す
健康保険料率は、協会けんぽなら都道府県支部ごとに、健康保険組合なら組合ごとに違います。毎年見直されるため、AIの知識に頼らず、自社の最新の料率を指示に含めます。介護保険の対象者(40〜64歳)かどうかも、年齢と一緒に渡します。
手順4:雇用保険と所得税は別の枠で計算させる
雇用保険は上限なしで賞与総額に料率を掛けます。所得税は、社会保険料を差し引いた後の額に、前月の給与から決まる率を掛けます。この2つを社会保険と同じ計算の流れで扱うと、上限の有無が混ざります。項目ごとに別の表で出させてください。
手順5:上限に達した社員を一覧で出させる
最後に、上限が効いた社員だけを抜き出させます。「支給額」「標準賞与額」「上限で減った額」の3列で出させると、確認が一目で済みます。上限に届く社員は役員や管理職に偏るため、件数は少ないはずです。多すぎる場合は、どこかで前提がずれています。
検算のチェックリスト
AIの出した金額を受け取る前に、次の4点を人間が確認します。
- 標準賞与額が1,000円未満切り捨てになっているか
- 150万円を超える賞与で、厚生年金の標準賞与額が150万円になっているか
- 年度内2回目以降の賞与で、健康保険の累計が573万円を超えていないか
- 雇用保険に社会保険の上限を誤って当てはめていないか
上限に届く社員が1人でもいれば、その人の分だけでも手計算で同じ金額になるかを確かめておくと安心です。
給与計算ソフトと組み合わせる
標準賞与額の上限判定は、本来は給与計算ソフトが支給履歴から自動で行う領域です。AIは、計算結果の説明や、例外ケースの洗い出し、社員からの問い合わせへの回答案づくりに使うと効果的です。
毎月の給与側の保険料のずれは、標準報酬月額の記事で解説しています。割増賃金の計算については、深夜残業の割増率の記事もあわせてご覧ください。
まとめ
賞与300万円の管理職の厚生年金保険料を、AIが支給額のまま計算すると本人負担は27万4,500円です。上限150万円を適用した正しい金額は13万7,250円で、10人なら1回で137万円余りの差になります。
防ぐ手順は、支給履歴を渡す、標準賞与額を先に出させる、自社の料率を渡す、雇用保険と所得税を分ける、上限に達した社員を一覧にする、の5つです。
なお、具体的な制度運用や個別の判断については、社会保険労務士など専門家の確認を受けることをおすすめします。
AI Scout編集部
AIツール・SaaS専門のレビューチーム。最新のAI技術動向を追い、実際にツールを使用した上で、正確で信頼性の高い情報を提供しています。