AIが「同意があれば前借金は給料から天引きできる」と答える2026|労基法17条は前借金と賃金の相殺を禁止・貸付自体は禁止されない・条文に同意や労使協定の例外はない・違反は30万円以下の罰金
AIに前借金の返済を聞くと「同意があれば給料から差し引ける」と答えることがあります。労基法17条の条文で、相殺禁止の範囲と5つの誤答、正しく答えさせる手順を解説します。
「入社のときに会社から20万円を前借りしました。毎月の給料から少しずつ差し引いて返してもらえば問題ないですか」とAIに聞くと、「本人が同意していれば、給料から差し引いて構いません」と答えることがあります。逆に「会社が従業員にお金を貸すこと自体が違法です」と言い切る例もあります。
どちらも、条文とは違います。労働基準法第17条は、使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならないと定めています。禁止されているのは「相殺」で、お金を貸すこと自体ではありません。
この記事では、e-Gov法令検索で取得した労働基準法第16条・第17条・第24条・第119条の条文をもとに、AIが取り違えやすい点と、AIに正しく答えさせる手順をまとめます。
前借金相殺の禁止の基本ルール
| 項目 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 禁止される行為 | 前借金などの債権と賃金を相殺すること | 労基法第17条 |
| 対象の債権 | 前借金その他「労働することを条件とする前貸の債権」 | 労基法第17条 |
| 条文にない例外 | 本人の同意や労使協定による例外は、第17条には書かれていない | 労基法第17条 |
| 賃金の支払の原則 | 通貨で、直接、全額を支払う。控除は法令の定めか書面の労使協定がある場合 | 労基法第24条第1項 |
| 罰則 | 6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 | 労基法第119条第1号 |
AIがよく出す5つの誤答
誤答1:「会社が従業員にお金を貸すこと自体が違法」
第17条が禁じているのは、前貸の債権と賃金を「相殺すること」です。条文には、会社がお金を貸すことを禁止する文言はありません。
問題になるのは返し方です。貸したお金を賃金と相殺して、働かなければ返せない状態にすることが禁じられています。「貸付は一切ダメ」という答えは、条文の対象を広げすぎています。
誤答2:「本人の同意書があれば、前借金を給料から差し引ける」
第17条には、「本人が同意した場合を除く」といった例外は書かれていません。条文は「相殺してはならない」と言い切っています。
同意書の有無だけで「差し引いてよい」と答えるAIは、条文を確認していません。同意の扱いで判断に迷う場合は、社会保険労務士や労働基準監督署に確認します。
誤答3:「第24条の労使協定を結べば、前借金も控除できる」
第24条第1項ただし書は、書面の労使協定があれば賃金の一部を控除できるとしています。ただし、これは賃金の全額払いの原則に対する定めです。
第17条は、それとは別の条文で、前借金などとの相殺を禁止しています。第17条には協定による例外の文言がありません。「24条の協定があるから17条も問題ない」とつなげる答えは、2つの条文を混ぜています。
誤答4:「『前借金』という名前でなければ、第17条は関係ない」
条文は「前借金その他労働することを条件とする前貸の債権」と定めています。名前ではなく、働くことを条件にした前貸しかどうかが対象を決めます。
「支度金」「入社準備金」などの名目でも、働くことを条件に先に渡したお金であれば、対象になりえます。該当するかは契約の内容で変わるため、個別の事情を専門家に確認します。
誤答5:「違反しても罰則はない」
第119条第1号は、第17条に違反した者を6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金に処すると定めています。第16条(賠償予定の禁止)の違反も同じ号に入っています。
「民事の問題なので罰則はない」という答えは、第119条を見落としています。
AIに正しく答えさせる手順
手順1:条文を貼ってから聞く
e-Gov法令検索から労基法第17条・第24条・第119条の本文をコピーします。「この条文だけを根拠に答えてください」と指示してから質問します。
手順2:「貸すこと」と「相殺すること」を分けさせる
「会社が貸付をすること」「その返済を賃金と相殺すること」「労働者が自分で返済すること」の3つについて、第17条との関係を表にさせます。分けさせると、誤答1と誤答2が起きにくくなります。
手順3:第17条と第24条の役割を並べさせる
「第17条は何を禁止しているか」「第24条第1項ただし書は何を認めているか」を、条文の文言を引用して答えさせます。引用がない答えは使いません。
手順4:確認用の質問で答えを試す
- 会社が従業員にお金を貸すことは、第17条で禁止されていますか。条文の文言で答えてください。
- 入社時の前借金を、本人の同意書をもとに毎月の給料と相殺できますか。
- 第24条の労使協定があれば、第17条の相殺禁止は外れますか。
- 第17条に違反した場合の罰則を、条番号つきで答えてください。
1問でも外れたら、そのプロンプトは使いません。
手順5:判断が分かれる点は専門家に確認する
貸付が「労働することを条件とする前貸」に当たるか、退職時の残額をどう精算するかは、契約の内容で変わります。社内の貸付制度をつくる前に、社会保険労務士や労働基準監督署に確認します。
まとめ
- 使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはなりません(労基法第17条)。
- 禁止されているのは相殺で、貸付そのものを禁じる文言はありません。
- 第17条には、本人の同意や労使協定による例外は書かれていません。
- 名目が「前借金」でなくても、働くことを条件にした前貸しは対象になりえます。
- 違反は6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です(第119条第1号)。
賃金から控除するときの労使協定は、賃金控除の記事で解説しています。違約金や損害賠償額の予定は、賠償予定の禁止の記事、給料の前払いは非常時払の記事をご覧ください。
出典:労働基準法 第16条・第17条・第24条・第119条(e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049、2026年7月17日施行版)。2026年10月15日取得。
AI Scout編集部
AIツール・SaaS専門のレビューチーム。最新のAI技術動向を追い、実際にツールを使用した上で、正確で信頼性の高い情報を提供しています。